◆ トピックス ◆

Ⅳ 気象情報が社会で活用されるために

 気象に関する観測や予報等の気象情報は、社会の基盤的な情報として防災対応や人々の生活に役立てられています。また、民間事業者等が行う気象情報の高度な利活用により社会の多様なニーズに応えることで、気象情報は社会経済活動においても欠かせない存在となっています。本トピックスでは、気象情報が社会でさらに利活用されることを目的とした気象庁の取り組みについて紹介します。

トピックスⅣ-1 気象業務法の改正

(1)背景

 近年の自然災害の頻発化・激甚化を背景として、国・都道府県による住民等の避難や地方公共団体の防災対応に資する情報の更なる高度化が求められるとともに、洪水等に対する民間企業の事業継続等の多様なニーズに対する情報提供の充実を進めていくことも非常に重要となっています。また、近年、国をはじめ民間や研究機関において洪水等の予測に関する様々な技術開発が進み、コンピュータシミュレーションを活用した先進的な予測技術が確立されてきています。

 このような状況を踏まえて、地方公共団体や住民、民間企業等における様々な防災対応がより適確に実施されるよう、官民それぞれの予報の高度化・充実を図るため、都道府県が行う洪水予報の早期発表を図る仕組みの構築や、多様な利用ニーズに応じた予報の提供に向けた民間の予報業務に関する制度の見直し等を行うことを内容とした「気象業務法及び水防法の一部を改正する法律」が、令和5年(2023年)通常国会において成立し令和5年5月31日に公布されました(同年11月30日までに全て施行)。

(2)改正の概要

ア.国や都道府県が行う予報の高度化

 都道府県指定洪水予報河川の洪水予報の高度化を図るため、国土交通大臣が国指定河川洪水河川の洪水予報を実施する際に本川・支川一体で水位予測を行うことにより取得した都道府県指定河川の予測水位・流量について、都道府県指定河川の洪水予報に活用できるよう、都道府県知事は国土交通大臣に対し当該情報の提供を求めることができることとし、求めがあった場合には国土交通大臣は当該情報を提供する旨の改正を行いました。

 また、令和4年(2022年)のトンガ諸島の火山の大規模噴火による日本国内での大きな潮位変化を受けて、火山現象に伴う津波についても気象庁が予報・警報を適確に実施できるようにしました。

イ.民間事業者による予報の高度化

 近年、民間や研究機関における予測技術の進展に伴い、洪水等の予測については、気象の観測・予測値を入力し、河川における水の流入や流下等の過程をシミュレーションする手法が主流となっています。このため、洪水等の予報業務については、従来の気象予報士の設置基準から技術上の基準へ移行して、最新の予測技術に即した適正な基準による審査の実施と、事業者の参入を促すこととしました。

 他方で、災害に関係する社会的な影響が大きい洪水等の現象の予報については、許可事業者による予報の特性を理解していない者が受け取った場合は防災上の混乱が生じる恐れがあります。このため、これら現象の許可事業者は、そのサービスの利用者に対し、利用に当たり留意すべき事項が十分に理解されるよう、事前に説明しなければならないこととしました。

 また、近年、簡易的に気象を観測できるセンサーが出現し、多地点のデータを低コストで得られるようになり、観測データの品質管理の技術も進んでいます。これを活用した予報業務の精度向上等を図るため、検定に合格していない気象測器による観測データを補完的に活用できることとしました。

 気象庁では、このような法改正を踏まえて、官民の予報の更なる高度化・充実を図っていきます。

トピックスⅣ-2 クラウド技術を活用したデータ提供の拡充

(1)クラウド技術を活用したデータ利用環境の運用開始

 気象庁では、令和6年(2024年)3月に、新しいスーパーコンピュータシステムの運用を開始しました。このシステムの一部にクラウド技術を活用し、大容量の気象データを提供するための環境を整備しました。これにより、これまで庁内利用にとどまっていた大容量データを新たに提供することが可能となり、民間事業者や大学・研究機関等による新たなサービス創出や調査・研究開発につながることが期待されます。また、過去のデータをクラウド環境上に蓄積することで、利用者それぞれがデータを蓄積することが不要となり、データの維持・管理の効率化も期待されます。

 将来的には、クラウド環境上で計算機能を利用可能とすることにより、気象庁の保有する膨大な気象情報・データが、民間事業者や大学・研究機関等にビッグデータとしてより高度に利用されるよう、今後も最新技術を活用しながら気象データの利活用促進を進めていきます。

クラウド技術を活用したデータ利用環境

(2)より精緻な花粉飛散予測に向けた取り組み

 さらに、花粉の飛散予測サービスは多くの民間気象事業者等から提供されていますが、その予測精度の向上には、風・気温・降水等の詳細な予測データが必要です。

 そこで、大容量データを提供できるクラウド環境の特性を生かして、これまでより詳細な三次元の気象予測データを気象庁から提供することにより、民間事業者が実施する花粉飛散予測の精度向上に貢献していきます。

クラウド技術を用いて提供する詳細な三次元気象予測データの例


トピックスⅣ-3 航空気象分野における気象情報の提供

(1)飛行場ナウキャストの提供について

 世界的に航空需要は今後ますます増加していくと見られていますが、航空機の運航には気象が大きく影響し、安全で効率的な飛行を実現するためにはきめ細かく精度の高い気象予測が必要です。

 こうした背景から気象庁は、令和6年(2024年)3月から運航管理者等に対し、国内7空港(新千歳、成田国際、東京国際、中部国際、関西国際、福岡、那覇)に対して新プロダクト「飛行場ナウキャスト」の提供を開始しました。

 飛行場ナウキャストは、気象観測やレーダー等の観測成果及び数値予報資料を基に自動作成しており、10分単位の気象予測(風向風速、視程、シーリング、天気(雷、降水、霧・もや)を180分先まで時系列に並べた図情報(右図)で、30分ごと、1日に48回発表します。

 最新の飛行場ナウキャストと併せて、予報官が作成する飛行場予報を御利用いただくことにより、安全な離着陸を支援します。

飛行場ナウキャスト

*シーリング:雲量が天空の5/8以上ある最も低い雲層の雲底の高さ、又は鉛直の視程のこと

(2)航空気象業務における三十分大気解析の利用

 飛行中の航空機に揺れをもたらす乱気流は、航空機の安全性や快適性に大きな影響を与えます。乱気流の中でも、雲の外で発生する晴天乱気流は気象レーダーや目視での把握が困難であるため、実況や予測に基づいて発生領域を事前に回避することが重要です。

三十分大気解析の例(東経140度鉛直断面図)

 気象庁では、航空機の安全で快適な運航を支援するため、大気の現在の状態を示す三十分大気解析を気象庁ホームページ「航空気象情報」にて提供しています。三十分大気解析では、風向風速、風の鉛直シアー(水平風の鉛直方向の変化率)、気温及び圏界面高度の解析値を水平断面図と鉛直断面図で表示し提供しています。これらのうち、風の鉛直シアーは晴天乱気流を予測する指標の一つであり、値が大きいほど強い乱気流となる可能性があります。三十分大気解析は、気象庁における乱気流の実況監視及び予測とともに、航空会社や航空交通管制で利用され、日々の運航の中で役立てられています。

トピックスⅣ-4 気象ビジネスにおけるデータ利活用促進に向けて 気象データアナリスト

(1)気象データ利活用の現状

 気象は、農業・水産業、運輸、製造、小売、保険など様々な産業に影響を与えます。しかし、気象データを事業に利活用している企業は約3割であり、しかも、経験と勘の企業が多く、事業データとの関係を分析している企業は約1割にとどまります。残りの約7割の企業(「気象の影響なし」と考えている企業を含む)は利活用していないのが現状です。

気象データを事業に利活用している企業は限定的

(2)気象データアナリスト

 気象庁では、気象データを活用した企業におけるビジネス創出や課題解決ができる人材の育成のため、気象データの知識とデータ分析の知識や分析する手法などを身に着けられる「気象データアナリスト育成講座」の認定を行っています。

 「気象データアナリスト育成講座」は、気象データを使用した分析のために修得すべき知識・技術(スキルセット)等を示した「カリキュラムガイドライン」(気象庁が気象ビジネス推進コンソーシアム協力のもと作成)に適合し、経産省の「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」(Reスキル講座)として認定された講座を気象庁が認定するものです。令和5年(2023年)9月現在、 3事業者で6つの「気象データアナリスト育成講座」が開講中です。

 気象の影響を大きく受ける企業の従業員が「気象データアナリスト」としてのスキルを身に着け即戦力として活躍し、業務に大きく貢献することが期待されています。

※気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC):産業界における気象データの利活用を一層推進することを目的に、産学官の連携組織として平成29年(2017年)3月に設立。気象庁が事務局を担う。

ビジネスの課題解決できる人材の育成に向けて

コラム

●気象データの専門家として海上工事の最適化に挑む


五洋建設株式会社

西 広人


 海上工事で活躍する作業船は風や波により動揺が発生するため、気象・海象データは工程や安全に直結する非常に重要なものです。弊社では海上工事を数多く手掛けていますが、今後本格化する洋上風力発電の建設を見据え、これまで以上に気象データを活用し、海上工事における気象専門家として客観的に十分な根拠を持った判断ができるようになればと思い、気象データアナリスト育成講座を受講しました。

 気象分野については初学でしたが、データ分析手法に加え、分析したデータから事象への診断・予測・処方などのアプローチ方法までを体系的に学ぶことができました。中でも波浪推算と関係の深い面的なデータのハンドリングスキルが身に付いたこと,異業種異分野の方との意見交換で知見が広がったことは非常に有意義だったと感じています。

 今後、気象データの高解像度化、高頻度化が進んでいく中で、当講座で学んだことを活かし、膨大な情報量を持つデータを最大限活用して、海上工事の最適化に繫げたいです。


コラム

●美味しいビールのために、気象データアナリスト


IT エンジニア 気象予報士

水林 亨介


 趣味のビール好きが高じて、ビールの原材料であるホップの生産者支援に参加する機会を得ました。食品メーカーと協力し、気象データとベテラン生産者のノウハウとを機械学習により結びつけ、新規就農者がより高品質なホップを生産できるようサポートするものでした。手法の妥当性検証のため、基本的な学習モデルを適用した初期の段階ですでに、想定よりも良い結果が得られました。

 この経験から、気象データ活用の可能性を強く感じたこと、また一方で、より精緻なモデルを扱うためには気象データを扱う知識、スキルを高める必要性も痛感したことから、気象データアナリスト育成講座の受講を決めました。

 執筆時点でまさに受講中で、様々な気象データの扱い方や分析手法について学んでおります。期待していた以上に充実した内容で、修了後はここで学んだことを活かし、国内ホップ生産の支援、ひいては美味しいビールのために取り組んでいけたらと思っております。


トピックスⅣ-5 気候情報の利活用促進に向けた農業機関との連携

 気象庁では、気候情報(天候の見通しや監視のデータ)の利活用促進を目的として、農業や家電、飲料・流通の分野といった様々な利用者との対話を通じ、その活用実態やニーズの把握を進めています。令和5年(2023年)1月には、気象情報が公的または民間サービスを通して農業生産者(エンドユーザー)に伝達する現状について、農業の研究機関や大学関係者、都道府県の方々と情報共有し、さらに今後の連携について実務者レベルで議論しました。このうち、気象情報の生産者への伝達現況について北海道を例に、九州大学 広田教授(前 農研機構北海道農業研究センター勤務)と、営農現場で気象データと応用技術情報の伝達を実務するJA等の方々に以下のとおり紹介いただきます。

会合の様子

コラム

●営農支援情報の開発と普及、生産者への伝達 ~北海道の事例紹介~


九州大学 大学院 農学研究院 気象環境学研究室 教授

広田 知良


 気象データの応用活用には、生産現場や民間事業者において高いレベルの実態やニーズの把握が不可欠である。本会合では、農業生産者のニーズと気象データの応用技術(シーズ)のギャップとその解消を検討した。そこで、筆者が関わった北海道の事例を農協の現場関係者と共に紹介した。

 その一つが土壌凍結深制御という応用技術である。大規模畑作地帯の道東地方では、近年の気候変動の影響として初冬における積雪深増加に伴う土壌凍結深減少があり、収穫後に畑に残って雑草化するという野良イモの大発生に至る。これに対して先進的農家から、忙しい農繁期の農薬での雑草防除ではなく、冬の農閑期での土壌凍結を活用した野良イモ凍死が着想され、凍結手段の雪の操作として「雪割り」(部分除雪)と「雪踏み」(圧雪)を創出した。ところが、この手法の効果は、積雪や気温の経過が毎年異なるため、安定性を欠いた。そこで、研究側から野良イモを防除する最適な土壌凍結深を予測する手法を開発した。この手法を十勝地方の農協の情報システムに搭載して、一般農家がアクセスできることで、雪の操作のタイミングの効率化が図られ、確実かつ安定的な野良イモ防除が可能となった。さらに、この手法は、北見地方等におけるタマネギの増収などでも効果があり、生産性向上による地域に大きな経済効果を与え、国内の食料安定供給、さらに土壌改善、温室効果ガス緩和策に寄与した。

 この過程には、課題当事者の農家自らの技術開発があり、そして基礎研究とのシーズの融合による共創を実現し、さらに公設農試、普及センター、農協、民間気象会社との協創で進んだ。そして、この技術を一般農家が確実に実施するために、農協による農業気象情報システムの構築があり、その結果、自ずと一般農家への気象データ利活用が推進できた。農協職員の独自の創意工夫を重ねて(新たなニーズとシーズの発掘、生産者向けのインタフェース開発、講習等の普及活動、農協間の交流によるノウハウ交換、単農協から農協連組織運用によるスケールメリットと小農協参加可能となる運営)、普及拡大、安定的長期運用が図られた。これはデータ駆動型農業の先駆的な実例でもある。農協の果たした役割から学ぶべき点は多い。


コラム

●農業気象情報を活用した営農支援と生産者への伝達


きたみらい農業協同組合 経営支援部 マネージャー(執筆当時)

畠山 重文


 近年、農業生産現場では気候変動が与える影響が顕在化し、記録的な高温や集中豪雨などにより生育障害、生産性や品質低下などの被害を受けているのを実感しています。農業は気象と密接に関係しており、作物や品種のポテンシャルを最大限に生かすためには、このような気候変動を的確に捉えた適応対策技術が、生産現場から強く求められます。JAきたみらいでは独自の気象モニタリングシステムを構築し、営農に欠かせない気象データを農家組合員へ提供し、気候変動に対応するための現場実態に即した、技術対策や農業気象情報の有効活用を実践しています。例えば、過去から地図情報を起点としたタマネギなどの栽培履歴や生産性データ、土壌診断結果などのビッグデータを活用しながら、生産者に直接、情報伝達や解説を含めた営農支援、経営相談もします。今後は、2週間気温予報などの長期先の予測データの更なる有効活用によって、作物生育や圃場(ほじょう)状態のリスクの高まりをより前もって察知できないかと考えています。これらの情報を基に栽培管理計画を改善していくことは、エンドユーザーである農家組合員の生産性向上につながり、多大な効果をもたらすものであると確信しています。


コラム

●十勝農業を支えるTAFシステム


十勝農業協同組合連合会 農産部 農産課(執筆当時)

小川 ひかり


 十勝の農業は、25万haの耕地に畑作と畜産が両立する大規模な農業が展開されており、高収量且つ高品質な生産を行いながらも作業の省力化が求められていることから、自動操舵トラクターの導入や衛星画像による生育の可視化、そしてICTを活用した情報管理の効率化が進められています。本会は十勝地区の23農協、約5,400戸の組合員を支援することを目的とした生産指導業務を主とする地区連合会であり、2017年より組合員の営農情報をWeb上で登録、閲覧する「TAFシステム(Tokachi total Assistance for Farmers)」の運用を開始し、農業分野のデジタル化を推進しています。TAFシステムには、組合員の作付圃場図を管理する「マッピングシステム」があり、圃場図に対して気象情報や衛星画像、土壌分析結果等のデータを集積しています。気象情報は農業データ連携基盤(WAGRI)から1kmメッシュのデータを取得しており、病害虫の発生予察によって圃場管理を行う最適なタイミングを圃場単位で確認することや、収穫機からこぼれ落ちた馬鈴しょの雑草化を防ぐことを目的として塊茎を土中で凍結腐敗させるため、土壌凍結深予測によって土壌凍結を促進させる「雪割り」や「雪踏み」の最適な作業スケジュールを確認することができるようになっています。TAFシステムは組合員のニーズを集めながら農協と本会が協力して構築しており、組合員に向けた栽培の改善指導や作業支援ができるように、今後も活用推進を強化していきます。


トピックスⅣ-6 社会の高度情報化に適合する気象サービス 気象予報士30年

 気象予報士制度は、防災情報と密接な関係を持つ気象情報について、技術的な裏付けの無い予報が社会に発表され、混乱をもたらすことの無いよう、数値予報資料等高度な予測データを適切に利用できる技術者を確保することを目的として創設され、令和6年で30年を迎えます。このトピックスでは、気象予報士制度30年の歩みについて振り返るとともに、民間における気象のスペシャリストとして気象予報士に期待されていることなどについて紹介したいと思います。

(1)気象審議会第18号答申と気象予報士制度の導入

 平成4年(1992年)3月、気象審議会(現 交通政策審議会気象分科会)は、気象庁以外の民間気象事業者や関係機関に対しても天気予報等の業務を開放し、国民の多様で個別的な二一ズに応える気象サービスの仕組みを構築するよう答申しました。これに基づき、平成5年(1993年)5月、気象業務法の一部改正が行われ、平成6年(1994年)3月に第一回の気象予報士試験が実施されました。令和6年(2024年)4月1日現在、12,100名の方が気象予報士として登録しています。

(2)予報業務許可事業者と気象予報士

 気象現象の予想には、数値予報資料の解釈など高度な技術を要することから、民間気象事業者が気象の予報業務を行う際には気象予報士に現象の予想を行わせることが義務付けられ、これにより民間が行う予報の技術水準を担保しています。

 なお、気象現象の予想を伴わない、地震動等の予報業務については、国土交通省令に定める技術上の基準に適合した手法で現象の予想を行うことを義務付けています。

(3)気象予報士への期待

 令和2年度(2020年度)に気象庁が気象予報士全員を対象に行った調査によると、全体の6割が気象予報士の資格取得が業務や社会活動に役立ったと回答しています。教育活動、気象解説、地域における防災活動などに、専門的な知見を活かしたいと考えている方に加え、知見をデータ分析・情報処理系の資格と組み合わせて活用できると考える方が一定程度いることも分かりました。

 今後、気象予報士の方々が、その専門的な知見を活かし、地域における防災活動の支援(「気象防災アドバイザー」等)や、産業界の気象データ利活用の分野(「気象データーアナリスト」等)などで活躍する機会が広がることが期待されます。

気象予報士の資格や知識を役立てたい業務

 以下のコラムでは、ニュースなど第一線で活躍されている2名の気象予報士の方から、気象予報士としての思いや求められる期待等について、また、気象予報士の団体である日本気象予報士会の会長から、同会の軌跡と活動内容について紹介いただきます。


コラム

●気象データを社会に活かすため気象予報士として出来ること


株式会社南気象予報士事務所

「NHKおはよう日本」気象情報担当

気象予報士 近藤 奈央


 気象データの利活用の必要性はDXが進む産業界で急速に広がりをみせています。気象予報士として気象解説はできても、それを企業の意思決定やリスク低減に結び付けるには適切なデータの抽出と分析が必要であり、その知識とスキルの習得に必需性を感じ、「気象データアナリスト育成講座」を受講しました。講座では、統計処理に適したプログラミング言語Pythonの技術を習得、多様なキャリアを持つ社会人と意見交換しながら、オープンデータと気象データを使用し、「2024年問題」に適応するためのビジネスモデルを構築しました。頻発する気象災害下における持続可能な社会の実現には、気象とビジネスのデータを繫ぐ橋渡し役が重要です。気候テックや気象テック系の企業が世界で増えているなか、気象データを企業にフィードバックできる人材の需要はさらに拡大します。今後はビジネスを含めた気象業務に関わりながら気象予報士の資質をさらに高めていく必要があると考えています。


コラム

●気象情報は未来をよくするためにある


株式会社ヒンメル・コンサルティング代表取締役

宇宙天気ユーザー協議会アウトリーチ分科会長

「NHKニュースウオッチ9」 気象情報担当

気象予報士 斉田 季実治


 気候変動に伴う災害の激甚化により、気象予報士の役割は増大している。平成29年度、地方公共団体の防災現場で即戦力となる気象防災の専門家を育成する「気象防災アドバイザー育成研修」が始まった。私は令和5年度に受講したが、風水害だけでなく、地震や火山も内容に含まれていて、予報の解説から避難の判断までを一貫して扱うための専門的なカリキュラムが用意されている。一方で、気象予報士には、気象や防災、環境問題などを一般の方たちにわかりやすく伝えるサイエンスコミュニケーターとしての役割も期待されている。令和3年放送のNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」で私が気象考証を担当したのは、この役割の一つだろう。気象現象は、季節や場所、時間によって起きることが限られているため、物語に噓がないように台本をチェックするのが主な仕事だったが、最新の防災気象情報の提案も幾つか行った。その一つが「宇宙天気」。近い将来、防災の観点で重要になると考えて提案したが、令和4年の総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」に参加するきっかけとなった。私は、気象情報は未来をよくするためにあると思っている。より快適な未来のために、気象予報士の活躍の場は益々広がっていくだろう。


コラム

●気象予報士30 年 ―日本気象予報士会の軌跡―


一般社団法人日本気象予報士会 代表理事会長

瀬上 哲秀


 気象予報士が誕生して、今年でちょうど30年となります。1993年5月に気象業務法が改正され、民間気象事業者においても一般向けの天気予報の発表が可能となり、翌年8月に第1回の気象予報士試験が実施されたわけです。

 4回目の試験が終了した1995年秋に、気象会社や航空会社、放送局などに所属する気象予報士が中心になって、予報士同士の横のつながりを深める目的で気象予報士会準備会が立ち上げられ、翌1996年7月に気象予報士会が任意団体として発足しました。初代会長には東京大学海洋研究所教授の木村龍治先生にご就任いただき、約700名の予報士が参加しました。

 その後、会員数は順調に伸びてきましたが、任意団体であるがゆえに会の資産管理や対外的な契約、業務運営等に制約があり、社会的信用にも影響が出るなど、法人格の取得が大きな課題となっていました。これに対して、法律の専門家を含む多くの会員のご尽力により、2009年10月に一般社団法人日本気象予報士会として新たな門出を迎えることができ、今日に至っています。

 現在、会員数は3300名を超えています。気象を生業にされている方はもとより、学校の先生や会社員、医師、弁護士、学生や家庭の主婦など、さまざまな職業やバックグラウンドを持つ方々が参加し、協力しあって会の多様な活動を支え、諸問題の解決に貢献していただいています。こうした人材の多様性が、本会の大きな特徴であり強みでもあります。

 本会の活動には大きく3つの柱があります。第一は気象技能の研鑽・向上と最新の気象知識の習得です。気象技術の進歩はまさに日進月歩で、試験に合格しただけではけっして十分ではなく、またすぐに陳腐化します。気象庁や気象学会などとも連携して、気象技能講習会やさまざまな講演会などを実施しています。

日本気象予報士会の活動

 第二は、技能講習などで培った知識や経験を生かした、気象・防災知識の普及啓発等の社会貢献活動です。市民や小中高生などを対象としたお天気教室や出前講座、気象庁虎ノ門庁舎での気象科学館の解説業務など多岐にわたっています。

 第三は、会員相互の親睦や交流で、その中心となるのが全国21の支部や有志活動団体などの活動です。特に、女性予報士を核とする「サニーエンジェルス」は、雲の形と名前を楽しく学べる歌を作詞作曲しYouTubeにアップするなど精力的に活動しています。また、機関誌「てんきすと」の発行やメーリングリストを通じた会員相互の情報交換も重要なツールとなっています。

 こうした私どもの活動へのご理解・ご支援を賜りますとともに、多くの方が気象予報士の資格を取得され、日本気象予報士会に参加されることを期待しています。


コラム

●アメダスが50年を迎えます

 アメダス(地域気象観測システム)は、923地点の雨量観測点により昭和49年(1974年)11月に運用を開始してから今年で50年を迎えます。全国の無人観測所で自動的に観測した気象データは、東京都千代田区に整備したアメダスセンター(当時)の情報処理装置で、自動で収集・品質管理・配信までを一括して行い、リアルタイムでの異常気象の監視や気象状況の把握に絶大な効果を発揮しました。以後、昭和51年(1976年)には気温、風向、風速、日照時間の観測の開始、昭和54年(1979年)には積雪観測の開始と順次観測の拡充をすすめ、令和6年(2024年)1月現在、1,284地点による観測網となっています。

アメダスセンターの様子(昭和50年頃)

 科学技術の進歩とともに、新しい測器(レーザー式積雪計、電気式湿度計、超音波式風速計)を採用して観測精度を高め、また高頻度に観測を行う等、改良を続けてきました。運用開始当初、観測データは1時間毎の時間間隔でしたが、平成15年(2003年)には10分間隔に、平成20年(2008年)には10秒毎の時間間隔に短縮し、一日の最高・最低気温や最大瞬間風速などがより精緻に得られるようになりました。

 アメダスから得られる観測・統計データは、10分毎に即時的な観測情報として配信し、気象庁ホームページでも閲覧出来ます。また各種統計を行ったデータについても気象庁ホームページ上で、準即時的な「最新の気象データ」や確定値としての「過去の気象データ検索」として公開し、広く国民に利用されています。


コラム

●デジタルアメダスアプリ等を用いた面的データの利活用促進

 交通政策審議会気象分科会の提言において、社会サービスの基盤情報として広く国民一般の利用に資するよう、推計気象分布のような面的データの拡充の方向性が示されています。これを踏まえ気象庁では、運用開始から50年を迎え社会に広く根付いたアメダス同様、面的データがDX社会の様々な場面での基盤的なデータとして広く浸透するよう、推計気象分布の拡充や面的気象データの統計値の整備に加え、面的データを基に任意の地点の気象データが把握可能となる取り組みなど、面的データの拡充やその利便性向上と利活用の促進について取り組んでいます。

 なお、面的データの利便性向上については、この取り組みを「デジタルアメダス」と呼んで特に力を入れており、面的データのニーズや利活用状況の把握のためスマートフォン向けの「デジタルアメダスアプリ」を令和6年(2024年)4月に北海道を対象として先行的に公開しました。今後、アプリの利用状況を踏まえ、さらに面的データの利活用を促進する取り組みを進めていきます。


コラム

●台風進路予報円をより絞り込んで発表

 台風接近時の地方公共団体の防災対応や住民の皆様の防災行動をより適切に支援するためには、精度の高い台風情報が重要となります。

 近年の数値予報技術や数値予報利用技術の向上により、台風進路予報の精度は、その年の台風の特徴に起因する年々の変動はあるものの長期的にみれば向上しています。

台風進路予報(中心位置の予報)の年平均誤差の推移

CSVファイル[1KB]


 こうした台風進路予報精度の向上を踏まえ、令和5年(2023年)6月から台風進路予報の予報円の大きさと暴風警戒域(台風の中心が予報円内に進んだ場合に風速25m/s 以上の暴風となるおそれのある範囲)を従来よりも絞り込んで発表するよう改善しました。

 今回の改善では、特に、3日先以降の予報円が大きく改善し、5日先の予報円の半径は従来と比べて最大40%小さくなりました。令和元年東日本台風を例に挙げると、従来の予報円では5日先に台風の中心が近畿にある可能性も示されていますが、改善後の予報円ではその可能性が低いことがわかります。

 今回の改善により、タイムラインに沿った地方公共団体の防災対応や住民の皆様の防災行動をより適切に支援できるようになることが期待されます。

台風進路予報円・暴風警戒域の改善イメージ

<台風進路予報円とは>

 気象庁が発表する台風情報では、台風進路予報の幅を示すため、台風の中心が70%の確率で入ると予想される範囲を円(予報円)で示しています。予報円の大きさは、最新の進路予報の検証結果に基づいて設定しており、加えて、予測の信頼度が低い場合には予報円がより大きく、信頼度が高い場合には予報円がより小さくなるよう調整して発表しています。

Adobe Reader

このサイトには、Adobe社Adobe Readerが必要なページがあります。
お持ちでない方は左のアイコンよりダウンロードをお願いいたします。

このページのトップへ