津波を予測するしくみ
概要
津波の多くは地震による海底の地殻変動によって発生します。このため、津波を予測するには、最初に、地震の位置と規模を求めます。次に、地震の位置と規模から推定される津波の高さと到達時刻を、津波予報データベースから検索します。検索して得られた津波の予測結果を用いて、警報・注意報を発表します。
なお、気象庁では新たな観測・予測技術の開発・導入やより良い情報の伝え方の検討などを行い、津波警報・注意報の改善に取り組んでいます。これまでの取り組みについては下記のリンク先をご覧ください。
津波予報データベース
日本周辺では、大きな地震が沿岸近くで発生することもあります。その場合、津波は地震発生後直ちに日本沿岸に襲来しますので、最新のコンピューターを用いたとしても、地震が発生してから計算を開始したのでは、津波が到達するまでに津波警報を発表することはできません。そこで、あらかじめ、津波を発生させる可能性のある断層を設定して津波の数値シミュレーションを行い、その結果を津波予報データベースとして蓄積しておきます。
図:津波予報データベースの構築
実際に地震が発生した時は、このデータベースから、発生した地震の位置や規模などに対応する予測結果を即座に検索することで、沿岸に対する津波警報・注意報の迅速な発表を実現しています。詳細については、津波警報の発表と解除をご覧ください。
図:津波予報データベースを用いた津波警報・注意報の発表手順
津波の数値シミュレーション
沿岸での津波の高さや到達時刻を求めるためのシミュレーションは、大別して、海底地殻変動計算と津波伝播計算の2段階に分けられます。
<海底地殻変動計算>
地震による海底の地殻変動は、地下の断層が動いたとして理論的に計算できます。 このとき、断層を規定する
1.断層の水平位置と深さ
2.断層の大きさ
3.断層の向き
4.断層の傾き
5.すべりの方向・大きさ
を定める必要があります。断層の向きは、過去の地震を参考に決めています。断層の水平位置と深さ、及び、断層の大きさとすべりの大きさ(これらはマグニチュードから換算できます。)については、どのような場所で、どのような大きさの地震が発生しても対処できるよう、多数のシミュレーションを行います。なお、断層の傾きとすべり方向については、最も大きく津波を発生させるような設定である、傾きが45°の純粋な逆断層(下の図を参照)としています。
図:地震による断層のすべり
断層は水平方向に約1,500箇所、深さは0~100kmの間で6通り、またマグニチュードは4通りを考え、これらの断層ひとつひとつについて海底の地殻変動を求めます。これを津波伝播計算に引き渡します。
図:津波予報データベースに格納されている地震断層の位置
<津波伝播計算>
一般に、津波を発生させるような海底地殻変動は数十キロメートル以上の広がりをもっていて、津波が広がり始める前に地殻変動が完了するため、海底地殻の上下変動がそのまま地震発生直後に海面に生じる凹凸になると考えることができます。こうして得られる海面凹凸パターンを津波の初期波源とし、これが四方八方に伝わっていく様子を計算します。数値計算の方法としては、計算領域を縦横の格子状に細かく区切り、各々の格子における津波の高さと速度について、津波伝播の方程式に従って時間を追って計算していきます。全ての断層に対してこのような計算を行い、沿岸に出現する津波の時間的変化の様子を再現しています。
沿岸での津波の高さの予測
津波警報の基準となる、沿岸で予想される津波の高さは、シミュレーションで計算された沿岸における高さをそのまま使っているわけではありません。それは、計算格子の大きさを一定にしているため、海岸近くの水深が浅く地形も複雑になってくる場所では、津波の再現精度が落ちてくると考えられるためです。これを解決するには、沿岸近くで計算格子を細かくするなど非常に詳細な計算を行う方法がありますが、全国の計算を行うには膨大な時間がかかり、現実的ではありません。そこで、誤差がまださほど含まれない沖合いでの津波の高さから、「グリーンの法則」を用いて、海岸での高さを推定しています。
沖合の(水深の深いところの)津波が沿岸の水深の浅い場所へくると、津波のスピードが遅くなり、前の波と後ろの波との間隔が短くなります。しかし、ひと波に蓄えられるエネルギーは、同じはずです。波面が海岸線に並行に入射する場合には、波と波との間隔が短くなった分、結果として、波の高さが高くなります。これがグリーンの法則です。気象庁では、グリーンの法則で水深1mでの高さを求め、これを沿岸での津波の高さとしています。
図:沖合予測点からの沿岸の津波の高さの予測
予報区ごとの警報・注意報の作成
気象庁は、津波警報・注意報を発表すると、全国の沿岸を66に分けた津波予報区ごとに、予想される津波の高さと到達予想時刻をお知らせしています。これらの津波予報区は、地形により異なる津波の現れ方の特徴を調査した上で、警報・注意報が発表されたときの自治体などの関係防災機関での緊急対応も考慮して設定されています。 ここでは、気象庁がどのようにして予報区の警報・注意報を作成しているのかを説明します。
<予報区での津波の高さ>
予報区に対する津波警報・注意報では、予報区内にある複数地点における津波の高さの予測値のうち、その中でいちばん高い値に基づき、「大津波」、「津波」、「津波注意」を判定し、その最大の高さを併せて発表しています。個々の地点の津波高さ推定には、上述の津波の高さの予測の方法に基づき、沿岸から15km程度沖合いに離れた点(予測点)までの津波シミュレーション計算結果にグリーンの法則を適用して沿岸での高さに換算したものを用います。
図:予報区における津波の高さの求め方
<予報区への津波の到達時刻>
水深の浅い沿岸付近では津波の到達予想時刻についても計算誤差が大きくなります。そこで、シミュレーションで得られる沖合いの予測点での到達時刻に、そこから沿岸まで津波が伝播する時間を加えることにより、予報区に対する津波到達時刻を算出しています。このとき、重力加速度をg、水深をhとして、津波は√ghの速さで海を伝わることを利用します。予報区への到達予想時刻の求め方は以下のとおりです。
1.予測地点周辺の水深データから、予測地点からの伝播時間が等しい地点を結ぶ。
2.1を繰り返すことにより、津波の伝播図が作成される。
3.津波伝播図から、予測地点から沿岸までの津波の伝播時間を読み取ることができる。
4.予報区内の全ての予測点について、沿岸までの到達予想時刻を求め、そのうち最も早いものを予報区への到達予想時刻とする。
なお、検潮所までの到達予想時刻については、各検潮所から津波の波源までの伝播時間を求め、発表に用いています。
図:津波の伝播図
過去の津波記録との比較
以上のようにして作成した津波予報データベースを使って、過去の津波の観測値と予測値とを比較してみます。これまでに津波を観測した139事例について津波の高さをみると、検潮所での観測値とデータベースの予測値との比の平均は1.2程度となり、平均的には観測値を良く再現するものとなりました。一方、津波警報・注意報で発表される津波予報区に対する予測値は、予報区内での最大の予測値を採用している(予報区での津波の高さを参照)ため、観測値に比べると平均して1.8倍程度になっています。
ただし、津波は、局所的な地形の影響で高さが大きく変わる性質があるため、場合によっては、津波警報や注意報でお伝えする津波の予想高さよりも大きな津波になることもあり得ます。津波警報が発表されたら直ちに高台に避難する、注意報が発表されたら直ちに海岸から離れることが肝要です。
発表した津波警報・注意報についての評価の実施
気象庁は、発表した津波警報や注意報について評価を実施し、予測と実際に観測された津波の高さの違い等について分析しています。評価結果については、気象庁ホームページにて解説しています。
本ページ内の図の作成にはGMT(Generic Mapping Tool[Wessel,P., and W.H.F.Smith, New, improved version of Generic Mapping Tools released, EOS Trans. Amer. Geophys. U., vol.79 (47), pp.579, 1998]) を使用しています。