津波警報の発表と解除
津波警報・注意報の発表
迅速な津波警報・注意報の必要性
日本では、海岸付近で発生した地震により、地震発生後のわずかな時間ですぐに津波が来襲することがあります。平成5年(1993年)北海道南西沖地震では、最も早いところでは地震発生後数分もかからず海岸に津波が到達したといわれています。このような津波の危険から一刻も早く避難いただくために、津波警報・注意報は1秒でも早く発表する必要があります。
気象庁では、地震が発生してから約3分(一部の地震※については最速2分程度)を目標に津波警報・注意報を発表します。
※日本近海で発生し、緊急地震速報の技術によって精度の良い震源位置やマグニチュードが迅速に求められる地震
迅速に発表する津波警報・注意報とその限界について
精度の高い津波予測を行うためには、海底の地殻変動によって生じる海面の変動の様子を把握し、その後の波の伝播を数値シミュレーションによって計算する必要があります。しかし、上記のように地震発生後2、3分程度という非常にわずかな時間で津波警報・注意報を発表するため、以下のような技術的な限界があります。
- 津波による海面の変動を精度良くリアルタイムで観測する方法がないこと
津波を予測するためには、津波による海面の変動の様子をリアルタイムで精度良く把握することが必要ですが、それを満たすような観測方法は現在のところありません。このため、気象庁では、以下の方法を用いて海面の変動を推測しています。
1. 地震波を観測して海底下で発生した地震の震源と規模(マグニチュード)を求める
2. 1.から海底下で生じた断層の大きさや断層のずれの大きさを推定する
3. 2.から海底の地殻変動(どのように隆起・沈降するかやその大きさ、範囲)を推定する
4. 3.から海面の変動の様子を推測する
- 海域で発生した地震の深さの推定精度
さらに、海域で発生した地震が津波を発生させるかどうかには、震源の深さが大きく影響します。震源が浅いほど、断層のずれによる海底の地殻変動が大きくなり、津波が発生しやすくなるからです。
一方で、震源の深さの決定精度は、地震の観測網から離れれば離れるほど低下する(地震計が震源を取り囲んでいれば精度が高い)性質があります。このため、海域の地震は、陸から離れるほど震源精度が低下します。気象庁では、震源が深く求まるような海域では震源を浅く仮定するようにしています。
また、津波警報・注意報を2,3分程度で発表するという時間的制約のために、以下の技術的な限界もあります。
- 巨大地震の断層の位置、ずれる方向及び地震の規模(マグニチュード)を2、3分では求められないこと
マグニチュード8を超えるような巨大地震の場合、断層のずれ自体が長い時間(数分以上)かけて起こります(例えば、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震は約3分程度でした)。このような地震の場合は、断層のずれが終了する前に津波警報・注意報の判断を行う必要があります。また、地震の規模(マグニチュード)を精度良く求める方法として、CMT解析やW-phase解析がありますが、これらの解析のためには地震波検知から少なくとも10分程度以上の波形が必要であり、2、3分で求めることはできません。
このため、気象庁の津波予報データベースでは、津波をもっとも発生させやすい傾斜角45度、すべり角90度の逆断層を仮定しています。また、断層の走向は海溝軸に沿う方向とし、付近に海溝軸がない場合は海岸線に沿った方向を設定しています。断層の長さ、幅、ずれる量(すべり量)はマグニチュードから経験式を用いて求めています。
特に沿岸に近い場所で地震が発生した場合、津波を小さく予測しないように、考えうる様々な断層による津波の予測値の中から最大のものを津波警報・注意報に用いています。
図:断層パラメータと津波の発生させやすさ
※横ずれ型の断層の場合は津波が発生しにくくなるが、2、3分では判別することはできない。
図:沿岸付近に震源を持つ場合に、津波予報データベースで検索される断層を示した模式図
※震源は断層のずれが最初に始まる位置を示している。 断層のずれる方向はどちらに向かうかわからないため、特に沿岸付近で発生する地震に対しては、震源から考えられる断層をすべて検索して津波予測を行う。
震源が日本の沿岸から離れている場合
震源が日本の沿岸から離れれば離れるほど、陸上にある国内の地震観測網だけでは震源やマグニチュードを精度良く推定することが困難になります。このような場合には、全世界の地震観測データを解析することが必要になり、その結果津波警報・注意報の発表に通常より時間がかかることもあります。もちろん、このような作業は、津波が沿岸へ到達するまで十分な時間の猶予がある場合に限ります。
津波警報・注意報の切替、解除
逐次得られる観測データによる津波警報・注意報の切替、解除
気象庁では、津波警報・注意報を発表した後も分析を続け、断層についての詳細が分かった時点で津波を予測し直します。その結果、最初の警報・注意報よりも津波が小さい、あるいは発生しない可能性が高いことが確認できれば、警報・注意報の切り替えや解除を行います。また、実際に津波が観測された場合など、逐次得られる観測データに基づいて、津波警報・注意報の更新を行います。