◆ 特集2 ◆ 令和6年能登半島地震
令和6年(2024年)1月1日、地元へ帰省している方も多かったと思われる元日に、石川県能登地方を大規模な地震が襲いました。強い揺れを伴う地震が何度も発生し、家屋倒壊や土砂崩れが各地で発生したほか、沿岸各地に津波が襲来しました。この地震により死者241人、全壊家屋8,027棟など甚大な被害※1が生じました。また、この地震は、国土地理院の観測により輪島市西部で最大4m程度の地面の隆起が検出されるなど、陸域直下で発生した地震としては近年まれにみる大きな地震でした。
※1 令和6年3月5日14時00分現在、消防庁災害対策本部資料による。

(1)一連の地震活動
令和6年(2024年)1月1日16時10分、石川県能登地方の深さ16kmでマグニチュード(M)7.6の地震(最大震度7)が発生しました。この地震によって、石川県輪島市及び志賀町で震度7を観測するとともに、能登地方の広い範囲で震度6弱以上の非常に強い揺れとなったほか、北陸地方を中心に北海道から九州地方にかけて震度6弱から1の揺れを観測しました。また、石川県では長周期地震動階級4を観測したほか、北陸地方を中心に東北地方から中国・四国地方にかけて長周期地震動階級3から1を観測しました。

この地震に伴い津波も発生しました。沿岸域で発生した地震だったため、地震発生から短時間で津波が襲来するとともに、日本海という閉じた海域で津波が反射を繰り返し、長時間継続しました。津波の高さは、石川県金沢市や山形県酒田市※2で80cmを観測するなど、日本海沿岸を中心に北海道から九州地方にかけての広い範囲で津波を観測したほか、後日の現地調査により新潟県上越市で5.8m(遡上高、速報値)などの津波の痕跡を確認しました。
※2 巨大津波観測計による観測のため、観測単位は0.1m
石川県能登地方では、この地震の発生よりも前から、地震活動が活発になっていました。一連の活発な地震活動は令和2年(2020年)12月からみられており、令和5年(2023年)5月5日にはM6.5(最大震度6強)の地震が発生、以降、活動がさらに活発化している状況の中で、1月1日の地震が発生しています。地震の規模や顕著な被害を踏まえて、気象庁では地震活動の名称を「令和6年能登半島地震」と定めました。この名称は、令和6年(2024年)1月1日に石川県能登地方で発生したM7.6の地震のみならず、前述の令和2年12月以降の一連の地震活動を指しています。
再び1月1日16時10分の地震に目を向けて、その地震の発生直前に着目すると、地震の震央周辺ではM7.6の地震の約4分前の16時06分にM5.5の地震(最大震度5強)が発生していました。また、M7.6の地震発生以降、1ヶ月の間に最大震度5弱以上の地震が17回発生するなど活発な地震活動が継続しました。地震活動の範囲は、令和5年12月までは能登半島北東部の概ね30km四方の範囲でしたが、1月1日の地震の直後から能登半島及びその北東側の海域にも広がり、北東-南西方向に150km程度もの範囲となっています。この地震活動の分布や地殻変動解析などから、1月1日のM7.6の地震の震源断層は、北東-南西方向に延びる150km程度の長大な長さを持ち、能登半島の陸域直下にも推定されています。また、能登半島沿岸部の活断層が活動したことが地震調査委員会により推定されています。
1月1日以降の地震活動は、過去に内陸及び沿岸で発生した主な地震の地震回数と比較しても非常に活発で、「平成16年(2004年)新潟県中越地震」や「平成28年(2016年)熊本地震」よりも多くなっています。


(2)緊急地震速報や津波警報等の発表
気象庁では、1月1日16時10分に発生したM7.6の地震において、直前(十数秒前)に発生した地震と合わせ、石川県能登地方に対して緊急地震速報(警報)を発表し、その後予測の更新に合わせてより広い範囲に対して緊急地震速報(警報)の続報を発表しました。また、令和6年1月の1か月間にこの地震を含む一連の地震活動のうち、20個の地震に対して緊急地震速報(警報)を発表しました。緊急地震速報の発表状況からも、いかに活発な地震活動であったかが分かります。
津波警報等の発表状況としては、1月1日16時10分の地震に伴い、16時12分に新潟県、富山県及び石川県に津波警報を、北海道日本海沿岸南部から山口県にかけての日本海沿岸に津波注意報を発表しました。その後、16時22分に石川県能登を大津波警報に切り替え、山形県、福井県及び兵庫県北部を津波警報に切り替え、北海道太平洋沿岸西部、北海道日本海沿岸北部及び九州地方の日本海沿岸に津波注意報を発表して、警戒を呼びかけました(2日10時00分に全て解除)。
また、1月1日の地震や津波に対し、複数回記者会見を開いて、津波からの避難や地震活動等について注意・警戒を呼びかけたほか、その後も定期的に報道発表を行い、地震活動の状況や今後の見通しについて解説しました。
(3)現地調査
震度5強以上を観測した地震では、震度観測点の観測環境が地震により異常となっていないかの点検や、震度観測点周辺での被害状況の調査を行うこととしています。このため、気象庁は気象庁機動調査班(JMA-MOT)を派遣し、最大震度7を観測した1月1日16時10分の地震発生以降、震度5強以上を観測した震度観測点(81地点)の設置状況の点検、及び震度観測点周辺(周囲約200m)での被害状況の調査を行いました。その結果、石川県内の震度観測点3地点(七尾市中島町中島、中能登町井田、羽咋市旭町)で観測環境に異常が認められたため、速やかに地震情報への活用を停止するとともに、1日16時10分以降に観測された震度を欠測としました。このように、活発な地震活動が継続する中でも、正確な震度の情報をお伝えできるように努めることも、気象庁の重要な業務です。なお、その他の78地点においては、震度計台や周囲の地盤等には震度観測に影響を与えるような異常は認められませんでした。


また、気象庁では、津波観測点付近や津波による顕著な被害があった地点において、津波の痕跡等から津波の高さを推定するための調査も実施しています。その結果、新潟県上越市船見公園では5.8m(遡上高、速報値)の津波による痕跡がみられるなど、津波による浸水の影響を確認しました。
(4)臨時の津波観測装置の設置
今回の地震の影響により、能登半島北部に位置する「輪島港」(国土交通省港湾局所管)及び「珠洲市長橋」(気象庁所管)の両津波観測地点の観測データに欠測が生じました。気象庁は港湾局の協力のもと両津波観測地点に臨時の津波観測装置を設置することとし、「輪島港」については1月8日から、「珠洲市長橋」の代替の観測地点である「珠洲市飯田」については2月9日から、津波・潮位の観測・監視を再開しました。

また、政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会における令和6年能登半島地震の評価(2月9日公表)において、令和2年12月以降の一連の地震活動は当分続くと考えられ、能登半島地震の震源域の活動域周辺での津波を伴う地震の発生の可能性があることが指摘されていることを受け、当該地域の津波観測体制を強化するため、「上越市直江津」及び「佐渡市小木」にも新たに臨時の津波観測装置を設置し、津波・潮位の観測・監視を3月27日から開始しました。
(5)JETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣
JETTとは、大規模な災害が発生または予想される場合に、都道府県や市町村の災害対策本部等へ気象庁職員を派遣する取り組みです。派遣された職員は、現場のニーズや各機関の活動状況を踏まえ、気象等のきめ細やかな解説を行い、各機関の防災対応を支援しています。
1月1日の地震でも、発災直後から石川県庁や能登半島の被災市町に気象庁職員をJETTとして派遣しました。派遣された職員は、石川県や能登半島の被災市町の災害対策本部で地震活動の状況や気象の見通し等の解説を行うほか、救命救助や復旧活動等を行う各機関から気象情報のニーズを聞き取り、その内容を踏まえた気象状況の解説を行うなど、各機関の防災対応を支援しました。


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