長官会見要旨(令和6年12月18日)

会見日時等

令和6年12月18日 14時00分~14時30分

於:気象庁記者会見室

発言要旨

 冒頭私から、2点述べさせていただきます。
 1点目は、令和6年度補正予算についてです。
 12月17日、昨日成立した令和6年度の補正予算には、「線状降水帯・台風等の予測精度向上等に向けた取組の強化」と「大規模地震災害・火山災害に備えた監視体制の確保」の2つを柱とした予算を計上しております。
 本年も線状降水帯や台風等による大雨が各地で発生し、大きな被害をもたらしました。このような被害を軽減するため、線状降水帯に関する情報はこれまでも改善を進めてきましたが、引き続き予測精度を向上させ、段階的に情報改善に取り組んでまいります。
 このために、線状降水帯の予測精度向上の切り札である次期静止気象衛星の整備を着実に進めます。さらに、海洋気象観測船「啓風丸」の代船の建造、アメダスへの湿度観測追加、二重偏波気象レーダーの整備などに加え、気象庁スーパーコンピュータシステムの強化、自治体の防災活動を直接支援する「気象防災アドバイザー」の拡充等に必要な経費を計上しております。
 また、南海トラフ地震等の大規模地震災害や、火山災害の防止・軽減に資するために、地震や火山の観測体制を維持・強化することが重要となっています。このため、令和6年能登半島地震等を踏まえた津波観測体制の維持強化や、地震観測施設の整備、火山監視・観測用機器の整備などに必要な経費を計上しております。
 補正予算が成立しましたので、速やかな執行を図り、国民の安心、安全の確保に努めてまいります。
 2点目ですが、本日の会見が今年最後の会見となりますので、この1年についての所感を述べたいと思います。一年分ですので、少し話が長くなりますが、ご容赦ください。
 まず、1月の能登半島地震と9月の能登地方の大雨についてです。
 今年は元日に能登半島で最大震度7の地震が発生し、大きな被害が発生したところです。また、9月には同じく能登半島が豪雨災害に見舞われました。改めまして、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
 この地震や豪雨災害に対して、気象庁は防災気象情報を速やかに発表するとともに、ホットラインや、自治体の災害対策本部や政府の現地災害対策本部等へのJETTの派遣によって、地震活動の状況や気象の見通しなどを解説しました。
 また、ポータルサイトを気象庁ホームページ上に開設し、きめ細かな情報を提供してきたところです。
 これらを通じて、防災機関の円滑な救助活動や復旧・復興活動、住民の皆様の避難生活における健康管理等に一定の貢献ができたと考えています。
 元日の地震発生からまもなく1年が経過しますが、先月も最大震度5弱を観測する地震が発生するなど、「令和6年能登半島地震」の活動域全体の地震活動は依然として活発な状態が続いています。また、元日の地震により揺れの強かった地域では、引き続き、家屋の倒壊や土砂災害などの危険性が高い状況にありますので、降雪・積雪期に入るこの時期、今後の地震活動、あるいは降雪等の状況に十分注意していただくようお願いします。
 次に、防災気象情報の改善についてです。
 6月には、令和4年1月から約2年半にわたって議論を行ってきた「防災気象情報に関する検討会」の成果が取りまとめられました。シンプルでわかりやすい新たな防災気象情報の運用開始を令和8年度出水期に見据えて、水管理・国土保全局と連携しつつ、報道の皆さまとも引き続き意見交換をさせていただきながら、準備を着実に進めてまいります。
 次に、「南海トラフ地震臨時情報」についてです。
 8月には、日向灘の地震に伴い、「南海トラフ地震臨時情報」を運用開始以降初めて発表しました。情報発表に関しては、国の基本計画等に基づき適切に対応するとともに、自治体等への解説も地方気象台から丁寧に実施できたと考えています。
 一方、今回の臨時情報の発表を通じて、「内閣府と連携しての防災対応も含めた丁寧な解説」、「気象庁ホームページ等による分かりやすい解説の充実」、「引き続きの普及啓発」など、検討すべき事項があることも分かりましたので、関係省庁とも調整するなど対応を進めてまいりたいと思います。
 次に、火山噴火予知連絡会についてです。
 11月には、火山噴火予知連絡会の役割の見直しについて検討を行った結果、火山噴火予知連絡会を終了することといたしました。清水会長をはじめとする委員の皆様方は元より、50年にわたる予知連の活動にご尽力いただきました全ての皆さまに、改めて感謝を申し上げます。
 気象庁では、新たに運用を開始した「火山情報アドバイザリー会議」からの助言もいただきながら、「火山調査研究推進本部」等とも連携し、火山災害の防止軽減のため、引き続き、適時適確な火山情報の提供及びこれに必要な火山の監視能力・活動評価能力の向上に努めていくこととしています。
 次に、大雨の振返り、線状降水帯の半日前予測についてです。
 本年は、7月の東北地方日本海側の大雨、8月から9月にかけての台風第10号による大雨、9月の石川県能登の大雨、11月の沖縄・奄美の大雨等により、各地で被害が発生しました。また、線状降水帯も度々発生したところです。
 この線状降水帯については、半日程度前からの呼びかけを本年5月から府県単位で実施してきたところです。その精度については、運用開始前の想定を下回る結果となっています。これは真摯に受け止めて、しっかりと検証を進めて、技術開発も含め、想定していた予測精度に近づけるよう努力してまいりたいと考えています。
 最後に、今年の高温についてです。
 今年も昨年に続き、記録的な高温の1年になりました。今年の日本の平均気温が1898年以降の127年間で最も高くなるとともに、日本付近の海面水温も1908年以降の117年間で最も高くなる見込みです。
 世界的に見ても、今年も地球全体の平均気温が最高を記録する見込みとなっています。
 また、11月11日から11月24日にかけて、アゼルバイジャン共和国のバクーで開催された気候変動対策を議論する国連気候変動枠組条約第29回締約国会議、いわゆるCOP29では、日本政府としても1.5℃目標の実現に向けて、NDC、国が決定する貢献、Nationally Determined Contributionの着実な実施が重要であることを主張するなど、地球温暖化対策を進めることが我が国はもちろん世界全体の喫緊の課題となっていることを実感しております。
 気象庁といたしましては、引き続き、地球温暖化の対策に資する気候変動の監視・予測について情報発信していくとともに、周知・啓発活動に努めてまいります。
 このように、振り返りますと、度重なる自然災害や将来に向けた防災気象情報の改善などに着実に対応してきたと考える一方で、今後改善するべき課題も見えたところです。これらの課題に対応するための取組を進めるため、引き続き、予測精度を改善するなど、技術力の向上を推進し、自治体や報道機関を含めた関係の皆様と一層連携のうえ、防災・減災に関する取組の更なる充実・強化を図ってまいりたいと考えております。
 私からは以上です。

質疑応答

Q:幹事社から二つほど質問させていただきます。まず1つは補正予算についてなのですけども、この総額が昨年度を160億円上回る450億円に増額されましたけれども、まずこの増額されたこと自体についてどのように受け止めますでしょうか。また、増額分のうち約95億円、半分以上がですね、線状降水帯の海上観測網強化に充てられていますけども、線状降水帯の予測に関してはこの海上の水蒸気の把握が難しいということが最大の課題だったかと思いますけども、今回海上観測網強化によって、今後の予測精度向上にどのような、影響があるのか教えてください。

A:補正予算についてご質問いただきましたが、今回の補正予算では主なものとして、次期静止気象衛星の整備に206億円、それから海洋気象観測船「啓風丸」の代船建造等に96億円、未設置の津波予報区9地点への巨大津波計の整備等に13億円を計上しているところです。総額約450億円というのは、令和4年度補正予算に次ぐ、過去2番目の規模となっております。これについては、気象庁の施策の重要性というものをご理解いただいて、必要な予算をしっかりとつけていただいたと考えております。先ほども申し上げましたけど、昨日補正予算が成立しましたので、速やかな執行を図り、国民の安心安全の確保に努めてまいりたいと考えております。
それから2つ目のところの、海上観測網の強化についてです。今もお話しましたけど、ご質問の約95億円の大半というのは、海洋気象観測船「啓風丸」の代船建造にかかる経費です。70億円程度が「啓風丸」の代船建造にかかる経費となっています。海洋気象観測船はデータが少ない海上で、季節予報、気候変動対策に資する海況・気候変動を監視するとともに、機動的な海上の水蒸気観測による線状降水帯予測精度向上への貢献など、非常に重要な役割を果たしています。老朽化してきている「啓風丸」を更新することで、海洋気象観測船による観測能力を確保・強化できると考えております。

Q:ありがとうございます。2点目なのですけども、今年1年間の振り返りを先ほどおっしゃっていただきましたけども、防災の話題に事欠かない1年間だったと思います。今年1年を漢字一文字で表すと、どのような文字が思い浮かぶでしょうか。

A:今年の漢字1字っていうのは「金」という字が選ばれたと承知していますけれど、総理大臣や官房長官なども、皆さん1字ずつ、取り上げられていて、自分だったらどうかということで考えておりましたが、気象庁としてではなくて、私個人としてということになるのですけど、1字選べと言われますと、「備」えるという字だと思います。準備の「備」です。まず、今年は元日から最大震度7の地震がありました。また、11月として初めての大雨の特別警報が出ました。8月には「南海トラフ地震臨時情報」が出ましたが、そのときには日頃の備えを再確認してくださいということがポイントになったところです。そういった意味で、この1年間、いつ、どういう災害が起こるかわからないなと、私としても実感させられた年だったと考えましたので、それに対する日頃の「備え」が大事だということで、備えるという準備の「備」かなと、私は思ったところです。国民の皆様には、「備えあれば憂いなし」という言葉がありますけど、やはり日頃の備えということを改めて考えていただけたらいいなと思っています。ちなみに、個人的ですけど、防災担当者としては、「備えあれば憂いなし」ではなく、「憂いなければ備えなし」だと思っています。結局、備えると安心してしまいますので、何か足りないことがないのかということで、常に憂うことによって、初めて備えることができると思っていまして、そうした心構えで対応しているところでございます。

Q:先ほどの冒頭の中での防災気象情報についてお伺いしたいのですけれども、年が変わって令和8年度出水期に向けてということであれば、もう1年半ほどということですけれども、こちらも法改正も必要で、また何よりもこの周知ですよね、これは我々報道の役割でもありますけれども、住民とか国民に対するこの周知、あるいは自治体については、防災計画の見直しなど、いろいろ必要なことがたくさんありますけれども、そのスケジュール感というのを改めてどのようにお考えでしょうか。

A:先ほど申し上げた通り、新しい防災気象情報の運用開始時期というのは令和8年度の出水期というのを目指しているところです。そこから逆算したスケジュールが必要だと考えています。既に今いくつかお話がありましたけれど、周知もありますが、始めるにあたっての調整先としていくつかありまして、政府内であったり、自治体があったり、報道機関があって、最終的には国民の皆様があると思っています。今は、まず、一緒に防災気象情報担当している水管理・国土保全局とともに、防災気象情報の具体をどうするかというところについて、検討会の取りまとめが出た後も、ずっと調整してきているところです。ただ、完全にそれが終わってから、各所への説明を始めるというのでは間に合わないということもありますので、自治体に対しても、こういうことになることが見込まれるという概要はできるだけ丁寧に説明するようにしていますし、既に、報道機関の皆様とも適宜意見交換をさせていただいているというところでございます。そういったところも踏まえて、最終的には運用開始に間に合うように、国民の皆様への周知を行うことになりますが、それに当たっては、今お話した関係の方々や、報道機関の皆さんのご協力が必要だと思いますので、その特に報道機関の方の周知の力はすごく大きいですので、ご協力をいただきながら、今後進めていきたいと思います。あと、法改正の話題もありましたけれど、確かに見直しの全てが法改正しないとできないわけではないのですが、例えば、洪水について特別警報を新設するということになると、これは法改正が必要になります。ですから、それについては、必要な改正事項は他にもどういうものがあるのかということを含めて、法律改正しないとできないことは何なのかというところを詰めた上で、間に合うように作業していきたいと考えています。

Q:2つあるのですけれども、冒頭のお話であった記録的な高温の関係で、昨年も気温については過去一番高かったと承知しております。2年連続で更新するということになると思うのですけれども、なかなか難しいですが、今後の見通しというところと、あとこの暑さが人々の暮らしにどんな影響を与えるとお考えかというところをお願いいたします。

A:今後の見通しというのは、なかなか難しいところではありますが、なぜそうなっているのかっていうところでは、地球温暖化ということが背景にあることは、間違いないのだと思います。さらにその年によって、エルニーニョが起こるのか、ラニーニャが起こるのかなど、そういった海洋の現象と関連して、大気中でどういう現象が起こるかということによって変わっていくということがあると思いますので、単純にどんどん記録を更新していくのかと言われると、そういうことではないのだと思います。ただベースとして地球温暖化があるので基本的には暑い年が多いのだろうと考えています。温暖化が進めば、とにかく気温はベースとして上がっていくというのは、世界的な共通事項だと考えていますので、1年1年毎の見通しは難しいですけど、傾向的にはそういうことだと考えます。国民の皆様の暮らしへの影響ですけども、傾向的にはそういうことだということでご理解いただくということが1つです。1年先のところから短いところになってきますと、半年先とか3ヶ月とか気象庁としても、季節予報を出させていただいているので、そういった予報も参考にしていただきながら、まさに先ほど言った言葉でありますが、「備えて」いただければありがたいなと考えています。

Q:もう一点別の話題なのですけれども、年末年始9連休ということもあって遠くに出かける人もいると思うのですが、特に日本海側を中心に雪もかなり多くなっていると思うのですが、国民の皆様に呼びかけ、大雪の注意について呼びかけがあればお願いします。

A:先ほど暑いという話をしましたけれど、12月入ってから、予報もしていた通り、冬らしい冬の形になっているなと思っています。特に特徴的かなと思っているのは、12月ぐらいだと、大体冬型の気圧配置がはっきり緩むタイミングがあって、大陸から移動性の高気圧が出てきて、日本海側でも晴れる日があるのですけれど、これは自分が北陸の出身なのでその感覚でもあるのですけれど、ただ、今月は移動性の高気圧が出てこずに、寒気が入るタイミング、低気圧が抜けたタイミングなどで冬型が強くなって、強弱は繰り返しているのですが、なかなか日本海側が晴れるタイミングがないという特徴があるなと感じています。今のところ年末の年始のところでは、特別強い寒気が入るという見通しは今のところ出てないと思いますけど、それはもっと近づいてきたところで、注視していかないといけないと思っていますが、ただ、基本的には、本格的な雪のシーズンになってくるということですし、予報でも一時的に強い寒気が入って、日本海側中心に大雪となる可能性はあると考えているところですので、もう対応されている方は対応されていると思いますけど、除雪をする道具の確認であるとか、スタッドレスタイヤの交換とか、これもまた「備え」となりますけれど、冬の備えをしっかりしていただきたいと考えます。年末年始は確かに移動の多い時期であろうと考えますので、それぞれの方の事情によって移動されると考えますが、それに当たっては、気象庁の情報も参考にしていただいて、しっかり備えをして対応していただければと思います。

Q:冒頭の発言にもありました次期NDCに関連した質問になるのですけども、まさに環境省、経済産業省の検討会で今検討が行われていて、年内にも取りまとめようというところだと思いますけども、一方で気象庁という科学的な観点から、まさに高温、地球温暖化の監視観測をしている立場としてですね、日本の次期NDCの求められる数字であったりとか、期待するもの、そういったものを何かあればコメントをお願いできればなと思うのですけども。

A:その具体的な数字をどうするかというのは、気象庁の分析といいますか、情報とか、それのみによって行われるものではないでしょうから、気象庁としては、そういうものを策定するにあたっての根拠となるような科学的データをまさに提供する立場であると考えています。明後日に文部科学省と共催で、「気候変動に関する懇談会」を開くことにしています。例えば、この懇談会では、我が国日本における気候変動のこれまでの状況と将来の予測について取りまとめた「日本の気候変動2025」、既に「日本の気候変動2020」というものは出ているのですが、その更新版ということで、「日本の気候変動2025」を今年度末に公表するということで、その準備状況等について懇談会の中で報告して、内容のご審議をいただくということにしています。これがまとまりましたら、これはしっかり科学的根拠に基づいて出すものなので、政府として、活用いただければと考えています。

(以上)