長官会見要旨(令和6年10月16日)

会見日時等

令和6年10月16日 14時00分~14時23分

於:気象庁記者会見室

発言要旨

 冒頭に私から今日は一点のみ述べさせていただきます。大雨の対応、石川県に特別警報を発表した先月の事例についてです。具体的には、9月20日から22日にかけて発生し、石川県では大雨特別警報の発表に至った大雨についてということであります。
 初めに、この大雨によりお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。
 この大雨については、9月20日ごろから前線が日本海から東北地方付近に停滞し、22日にかけて前線上の低気圧や台風第14号から変わった低気圧及び前線に向かって、暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で東北地方から西日本にかけての広い範囲で雷を伴った大雨になりました。
 特に秋田県では20日の明け方、石川県では21日午前中に線状降水帯が発生し、石川県能登では21日に輪島市珠洲市及び能登町に大雨特別警報を発表しました。
 今回の大雨について、気象庁では、事前に防災気象情報、防災気象情報を発表する他、各地の気象台からは、自治体へのホットラインやJETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣など、積極的に自治体の防災対応の支援を行ったところです。
 一方で秋田県、石川県ともに線状降水帯の発生は予測できておらず、結果として、雨量が予測より多くなりました。
 気象庁としましては、今回の大雨事例を含め、今年発生した事例の検証を現在まさに進めているところでありまして、引き続き線状降水帯の予測精度向上に取り組んでまいります。
 私からは以上でございます。

質疑応答

Q:今お話がありました能登の豪雨についてですけれども、特別警報が発表されるほどの大雨でしたが、線状降水帯の半日前予測の発表はなかったかと思います。予測がなかなか難しいということは承知しておりますけれども、これが結果としてできなかったということに対しての受け止めを教えてください。それと併せまして、7月の会見のときに精度の予測の向上を図っていくということをおっしゃったかと思いますけれども、その対応を早めるなど具体的に精度予測の向上に向けて何かありましたらお示しください。

A:先ほどもお話ししましたが、今般の能登の大雨では、前日の20日夕方の段階で、翌日21日に日本海に予想される低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、東北地方や北陸地方で大雨となるところがあるということは予想していました。ただ線状降水帯の発生までは予想できず、ご指摘の通り、半日程度前からの呼びかけは実施できなかったということです。今回の事例は、いわゆる見逃しの事例となりますが、このような事例を少しでも減らせるよう検証を行っていくという考えです。加えて、ご指摘の予測精度の向上についてですが、今回の能登の事例を含めて、今年発生した事例の検証を現在まさに進めているところですので、まずは来年の出水期に向けて、引き続きしっかりと取り組んでまいりたいと考えております。

Q:もろもろ検証を行っているということでしたけども、具体的にどういった検証というのをしていく方針なのか教えていただければと思います。

A:検証にはいくつかの視点というものがあるのですけれども、まずは一つ一つの事例について、いわゆる空振りになったものや見逃しになったものとか、どういう事例として、つまり、適中にならなかったのかというものがあります。今年を振り返ってみると、梅雨時の早い時期は前線を伴った低気圧が早めに移動していきましたので、つまり前線に停滞性がなかったので線状降水帯にならなかったというものもありました。また、台風第5号は東北地方を東から西に抜けていったわけですけども、あの場合も総雨量は相当多かったのですけれども、結果的にはダラダラと降るタイプの雨になったので線状降水帯には至りませんでした。あと、台風第7号は日本の東海上を北上しましたが、予報円の範囲内を通ってはいるのですけれども、予報円の中では割と東側、つまり陸地から遠い側を通っていきました。個々で見ると、呼びかけしたのに線状降水帯発生が発生しなかったものがあったと考えています。
 もう一つの観点で言うと、適中率の想定というか見込みを当初お話しましたけれども、その時は4回に1回程度、つまり、呼びかけをしたら25%程度適中させられるのではないかと考えていました。ただ、実際のところは81回呼びかけを行って8回適中、本日の午前中にホームページに今年の実績を載せましたのですでに見られている方もいらっしゃるかと思いますけど、適中というところが81回中8回、約10%で、運用開始前の想定が25%程度となっています。その想定のところのポイントというのは、令和5年のデータから検証したものですので、令和5年の事例であったなら25%当てられていたはずだということなのですが、それが10%になっているということは、1個1個の事例もありますけれども、今年の事例が当てにくかった何か理由があるのではないのか、そういったところもシーズン全体を通じて検証する必要があると思っています。あと大事なことは、見逃しはできるだけ避けたいということがあります。先ほどの能登の事例も残念ながら見逃しだったわけですけれども、実は見逃しの事例のところを見ると、17回中9回、約53%ですので、当初想定していた2回に1回程度、50%程度とあまり差がないと思います。ですから、見逃しをできるだけ避けたいという意味での精度の確保というものは一定程度できたのではないかと思っています。ただ、空振りが非常に多かったことは確かですので、個々の事例やシーズンを通した検証を進めていきたいと考えています。

Q:今の線状降水帯の話に関して、被害の大きかった能登や東北の事例での見逃しが結果的にあったかと思うのですけれども、そこについてはどのように受け止めていらっしゃいますか。

A:今のおっしゃったことには二つの意味が多分あると思っています。まず、九州の方で起こる事例と比べると、東北地方や北陸地方の事例は割と局所的であったり、また水蒸気の流れ込みについても、九州などとは違うパターンがあるのではないか。つまり、九州では東シナ海から大規模に暖湿気が流れ込んでくるので、そういう意味で東北地方や北陸地方では当てにくい理由があるのではないかということが一つ。もう一つは、東北地方や北陸地方は基本的に大雨が少ない地域です。ですから、線状降水帯が1回できてしまうと大きな災害に結びつきやすいこともあったのだと思います。そういう東北地方や北陸地方といった北日本の大雨についても、今後精度を上げていく努力が必要だと考えているところです。

Q:石破政権で防災庁設置の動きがあります。これについての受け止めと、気象庁は出向者も多く出していらっしゃって活躍している方も多いので、組織から見たときの今の内閣府防災の課題についても何かありましたら教えてください。

A:石破総理が防災庁構想というものを持っておられることは、報道を通じてですけれども、何度も報道されていますので、承知しています。確か、まず内閣府防災を強化したいと言っておられますし、その後に防災庁と言っておられると承知しています。ただ、防災庁については、具体的なイメージが私ども全くわかっていませんので、防災庁構想についてのコメントは現段階ではお答えする知見を持っていませんので差し控えさせていただきたいと思います。それから、確かに内閣府防災にはいろんな省庁から出向者が行っておられるところです。気象庁からも複数の職員を出向させています。実際自分も約30年前ですけれども、当時の国土庁防災局に2年間出向させていただいて、雲仙岳の噴火や阪神・淡路大震災の対応をさせていただいたところです。内閣府防災は、政府の中の現段階においてもやはり中枢的な機能を働かせているところだと考えます。ただ、そのあり方についてどうするかというところについて、総理がどう強化したいのかというところの具体がわかりませんので、今後その辺については政府として対応する、おそらく検討するということになるのだろうと思いますので、政府の一員として、必要があれば気象庁としても対応するということだと考えています。現段階ではとにかく具体が見えないので、細部はお答えしようがないというところです。

Q:能登の豪雨についてですけれども、線状降水帯の見逃しに至った理由について、長官ご自身は今の時点ではどのように振り返っていらっしゃいますか。

A:見逃しの事例では、場として線状降水帯ができるほどの大雨になるということが予測できていないことが多いのだろうと思います。割と特定の府県にだけできるというパターンが多いのではないかと思っています。ですから、そういう局地性の高いものについてどこまで予測できるか、多分局地性の高いものというのは予測がより難しいと思いますので、それにどこまで対応できていくのかというのは、まさに振り返りの一つだと思っています。

Q:それは、先ほども東北や北陸では何か当てにくい理由が別途あるのではと言われていましたけれども、東北、北陸、北海道など普段は局地的に大雨の降らないところで起きると、今の技術では予測するのがなかなか難しいということなのでしょうか?

A:はい、そういうことだと思います。ただ、改善の検討を何もしないのかと言われるとそういうことはないと思いますので、何か手立てがないのかという検討はしていきたいと思います。あと将来的には、次の静止気象衛星「ひまわり」で大気の構造を3次元で捉えられることになりますので、それをどこまで活用できるのかということも将来的な課題としてあるのだというふうに考えております。

Q:線状降水帯について、今年から地方単位ではなく県単位での予測が始まりましたが、出水期が終わってどういった効果を感じていらっしゃるか教えてください。

A:まず、昨日も奄美地方で記録的短時間大雨情報が出ていますので、出水期も終盤戦なのかもしれないですが、終わったとまではまだ言えないのかなと思っています。府県単位での予測を始めるときにもお話したと思いますが、ブロック単位で言われると、やはりイメージがぼわーっとしてしまうので、我が事感というのがなかなか持ちにくいと思います。そういう意味で、県単位で発表されれば、少なくとも大雨になる可能性は高いんだなというぐらいの意識は持っていただくというところでは、意味があるのではないかと考えています。ただ、逆に言うと範囲を絞ることによって外れているというものもあるわけですので、我が事感を持っていただける一方で、外れてばかりですとオオカミ少年になってしまいますので、我が事感を持っていただくとともに精度を向上させる努力を並行してやっていかないといけないと思っています。

Q:今まで線状降水帯の予測精度を上げるための様々なプロジェクトがありましたが、どちらかというと九州辺りの状況を把握するということで、東シナ海にかけての観測を強化したり、水蒸気の観測も西日本を重点的にやってきたと思いますが、それとは全然違うところで線状降水帯が起きて当たらないとなると、衛星はもちろんあるとしても、それ以外にも観測体制も見直しの余地があるのかなと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

A:確かに、どうしても今までは東シナ海から入ってくる水蒸気という意識が強くて、例えば海洋気象観測船での出水期の観測はほとんど東シナ海でやってきましたが、今後それを日本海や三陸沖などでやるのかとなると、観測船も2隻で限られているものがありますので、その辺の運用については、すぐ北の方に持っていきますとは言えないところだと思います。一方で、衛星は北日本か西日本かということで精度が変わるわけではありませんので、それはそれで有用だと思いますし、陸上でもアメダスに湿度計をつけるであるとか、レーダーを最新型のレーダーいわゆる二重偏波レーダー、雨粒の大きさや形がわかるレーダーに順次に更新しています。これらは特段、西日本に限定している訳ではありませんので、そういったものは有効に活用して、引き続き北日本、北陸地方の線状降水帯の予測精度向上に取り組んでいきたいと考えています。

Q:線状降水帯の予測をするためにスパコンを導入したわけですけれども、話が大々的に出たときにはすごく期待が高まりましたが、やはり今回のことからハードをいくら増やしてもそれだけでは限界があるということが露呈したとも言えるのでしょうか。

A:露呈というか想定はされるところのものがあって、多分、防災気象情報を改善していくには三つの視点があると思います。一つはハードを良くする。スパコンを良くするのがそうです。観測機器もそうです。次はソフトを良くする。やはり技術開発も非常に大事ですので、数値予報モデルが典型例ですけどそういうソフト面もいると思います。あともう一つは情報の見せ方や出し方の工夫があると思います。ハード・ソフトでそれぞれ頑張ったとして、それでできるものには限界が常にありますので、国民の皆様やユーザーの方々に使っていただくにはどういう見せ方や出し方であれば受け入れやすいのか、そういう工夫もあると考えています。

Q:今回は見せ方や出し方以前の問題が大きいかとは思うのですけれども、ソフトということで言うと、線状降水帯をより予測しやすいモデルということも考えていかないといけないということでしょうか。

A:モデルも複数ありますので、どのモデルが比較的当たっているとかいうのがあります。ただ、当たっているといっても、今回の事例ではこちらのモデルが良かったが、別な事例ではあちらのモデルが良かったということもありますので、それはまたそれで何故なのかというのも検討の一つになります。庁内で今そういう検証を進めているところですけれども、国内には学識者として知見を持っておられる方もいらっしゃいますので、必ずしも気象庁に閉じて検証することではないと思っています。

Q:そういう専門家も含めて多少オープンな形で検証して反映させていくということでしょうか。

A:はい、ちなみに具体的に言いますと、皆さんすでにご案内だと思うのですけれども、線状降水帯の予測精度向上のワーキンググループというのも既にありますので、例えばそういうところのご意見をいただくのはありだと思っています。

(以上)