長官会見要旨(令和6年7月17日)

会見日時等

令和6年7月17日 14時00分~14時30分

於:気象庁記者会見室

発言要旨

 本日は夏休み前ということもありまして、イベントの企画の紹介などもありまして、少し長くなりますが、4点述べさせていただきます。
 1点目は、大雨と暑さへの備えについてです。
 まず、7月12日の松山市の土砂災害でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、これまでの大雨により被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。梅雨前線は6月中旬以降、日本付近に停滞して日本の各地で大雨となりました。活動の活発な梅雨前線の影響で、九州南部や本州の日本海側では記録的な大雨となった所があり、6月21日には鹿児島県で、6月28日には静岡県で、7月14日には長崎県で、線状降水帯が発生しました。こうした一連の大雨につきまして、気象庁では、各地の気象台から段階的に防災気象情報を発表して警戒を呼びかけるとともに、ホットラインやJETTの派遣など、積極的に自治体の防災対応の支援を行わせていただいたところです。
 このような中、半日程度前からの線状降水帯による大雨の可能性の呼びかけを、府県単位で実施しているところですが、5月27日の運用開始以降、呼びかけを行って実際に線状降水帯が発生した事例は2件にとどまっています。これは、運用開始前に想定していた「4回に1回程度適中」を下回る状況ですが、呼びかけを行った事例のうち半数(14/28)で実際に3時間降水量100ミリを超える大雨となっており、早い段階から大雨に対する危機感をお伝えすることができていると考えています。ただ、一方で、的中率が低い状況が続きますと、前回の会見でも申しましたが、オオカミ少年的にみられ、防災上マイナスの効果となるというおそれもあります。引き続き、個々の事例の検証を進め、予測精度の向上を図ってまいりたいと考えています。
 加えて、本呼びかけの周知広報、特に、呼びかけを行っても実際に線状降水帯が発生しない場合もあることをしっかり周知することも重要と考えています。この一環で、気象庁ホームページにある線状降水帯に関する情報の解説ページをリニューアルし、トップページからアクセスできるようバナーを設置しましたので、ぜひご活用いただければと思います。
 また、先日(7月2日)報道発表にてお伝えしたように、7月から8月にかけて1年でもっとも暑い時期になります。本日、九州南部が梅雨明けしたとみられる状況にありますけれども、向こう3か月の気温が全国的に高くなる見通しとなっており、厳しい暑さへの備えを万全にしていただきたいと思います。暑さ指数や熱中症警戒アラート等を目安として、気温の予報も活用しながら、適切な熱中症予防行動をとっていただくようお願いします。
 2点目は、太平洋・島サミットについてです。
 16~18日の3日間の日程で太平洋・島サミット、いわゆるPALM10(パーム・テン)が開催されており、日本と太平洋島嶼国・地域の首脳間で地域の課題解決に向けた議論が行われているところです。
 いくつかの報道において、準天頂衛星「みちびき」の実証事業において、当庁が発表する津波情報等をご利用いただくと聞いていますが、この点は内閣府の施策ですので、その詳細については内閣府にお問い合わせください。
 一方、新しい施策ではないですが、当庁は、太平洋島嶼国・地域の国々に対して、長年にわたり気象衛星「ひまわり」の観測データを提供しています。ご存じの通り、「ひまわり」は西太平洋を中心に北半球に限らず南半球も広域で観測しています。その観測データ提供は太平洋島嶼国・地域の国々に対して、非常に貢献していると考えているところです。加えて、国際協力機構(JICA)や世界気象機関(WMO)とも連携して、フィジーを含めた各国の気象局に「ひまわり」のデータの利用方法の研修等も行い、サイクロン対策をはじめ防災気象業務の能力向上を支援してきています。今後とも、関係機関と連携しつつ、各国の気象業務の発展に貢献していきます。
 3点目は、気象業務150周年関係の事業についてお話します。
 まず、記念のロゴマークとキャッチコピーについてです。
 これは、来年、気象業務150周年を迎えるにあたって、気象業務に従事する関係者が、過去の歴史を振り返り、今後の展望を考える契機とすることや、この節目に、より国民の皆様に気象業務へのご理解を深めていただくことを目的として作成したものです。
 この作成にあたっては、気象庁職員のほか、気象振興協議会所属の民間気象事業者、日本気象予報士会、気象友の会、気象防災アドバイザー推進ネットワーク、日本測器工業会から募集を行ったもので、この度選考作業が終了し、本日11時に報道発表をさせていただきました。
 ロゴマークについてですが、“背景の色は海を表し、そこに雲と地震波、火山、ひまわりを図案化して気象業務を表現したもの”となっています。
 キャッチコピーについては、「歩み続けて150年 防ぐ災害・守る未来」ということで、“気象業務は国民の生命財産を災害から守り、幸せな未来へと繋がるよう発展し続けている。未だ道半ばの150年、これからもよりよい世界を目指して進む”という思いが込められています。
 今後、気象庁では、国民の生命と財産を守る思いを新たにし、150周年を迎える来年度にかけて、各種イベントなどを中心として広く活用していく予定です。
 次に、防災展示の企画のアイデアコンクールについてです。
 気象庁では、全国の小中学生を対象として、防災展示の企画のアイデアを募集するコンクールを行います。募集するアイデアは、自然災害が発生する仕組みや災害から命を守る方法、気象庁が行っている観測・予報等の仕組みなどをわかりやすく伝えるための展示であるとか工作物の企画のアイデアとなります。
 募集期間は、今年の9月30日までとなっており、小学生部門と中学生部門の2部門で、国土交通大臣賞や気象庁長官賞など様々な賞を選考のうえ表彰を行う予定です。また、国土交通大臣賞のアイデアについては、気象庁において実際に製作し展示するとともに、その他の受賞作品についても、気象庁で行うイベントなどにおいて、防災に関する普及啓発に活用していく予定です。
 全国の小中学生の多くのみなさまの応募をお待ちしております。
 4点目は、「夏休み子ども見学デー」についてです。
 今年も「こども霞が関見学デー」の一環として、この虎ノ門庁舎を会場に8月7日、8日の2日間において、港区立みなと科学館と合同で「夏休み子ども見学デー」を開催します。
 例年好評の気象や地震のオペレーションルームの見学をはじめ、はれるん20周年のお祝いブースを設置するなど、親子で気象や地震などの自然現象に興味を持っていただけるように様々な仕掛けや工夫を準備しています。
 また、今年は、8月26日に初めて“火山防災の日”を迎える年でもありますので、特に、火山防災の展示を重点的に行うとともに、2日目となる8日には、桜島など活発な火山を所管する鹿児島地方気象台とオンライン接続し、来場者参加型で火山をより身近に感じてもらうための特別イベントを実施する予定ですので、ぜひ、多くの子供たちに来ていただきたいと思います。
 なお、全国各地の気象台等でも7月から10月にかけて、子供世代を対象としたイベントを開催しますので、各地域の皆様には、こちらにご参加いただければと思います。
 長くなり、恐縮ですが、私からは以上です。

質疑応答

Q:幹事社から質問です。今年の夏は太平洋高気圧とチベット高気圧の二つの高気圧に覆われて厳しい暑さになるといった予報ですけれども、観測史上最も暑かった昨年夏以上の暑さになる恐れがあるのかというところと、全国の農業従事者に向けて、どのような対策をとるべきか、というところを教えていただければと思います。

A:今年の夏についてですが、太平洋高気圧、チベット高気圧ともに日本への張り出しが平年に比べて、やや強くなるのではないかという傾向を見込んでいます。記録的な高温となった昨年夏を上回る高温となるかということは、現時点ではわからないところですけども、地球全体の大気の高温傾向が続く中で、例えば、これらの高気圧の張り出しが、一層強まる場合などは、気温がかなり上昇する可能性があります。全国的に高温となることを予報していますので、農作物の管理に最新の予報や気象情報を活用いただきたいと思います。また、農作業をされる方々におかれては、その作業の際には、十分な熱中症対策をしていただきたいと考えております。

Q:愛媛県松山市の土砂崩れについてお聞きします。今回土砂崩れが発生したタイミングが雨量としては弱まっている段階で、防災気象情報としては大雨注意報が出ているタイミングでの発災となったかと思います。現地での専門家の調査も進んでいるところではあるとは思うのですけれども、気象庁の立場としては、かなり難しい事例になったのではないかなと受け止めているところですけれども、長官として気象庁、気象台の対応を振り返った上での受け止めをお願いできますでしょうか。

A:お話があった通り、土砂災害が発生したとみられる時間帯には大雨注意報を発表しておりましたが、観測結果や予測資料では警報等の発表基準に達する見通しではなかったことから、松山市に対しての警報は発表していませんでした。その後、松山市で大雨警報基準に達する見通しとなったため、午前4時32分に大雨警報(土砂)を発表して、さらに今後の雨の状況を考慮し、県と気象台から7時に土砂災害警戒情報を発表しました。これらの一連の対応については、基準に照らし合わせながら適切に行われたものと考えており、気象台等の対応に問題はなかったと認識しております。

Q:今回の事例は、大雨の基準に達しない中でも起きてしまったというところで、原因のところはまだいろんな観点があるかとは思うのですけれども、それで例えば基準を引き下げるとかというところも考えとしてはあったりするかも知れないのですけど、そこの難しさもあるかと思うのですけど、そのあたりはいかがでしょうか。

A:大雨警報等の基準というものはこれまでのところでも、災害の発生状況等を踏まえて、必要に応じて見直しを行ってきているところであります。それで今回の場合どうなのかということですが、今お話がありましたけど、原因はどういうものであったのかというところについては、報道などでは、「単純ではない」というような専門家の見解を示した記事もあると承知しています。まず、どういった原因だったのかというところを踏まえて、必要に応じて県であるとか、市と相談しながら検討したいと考えております。

Q:線状降水帯の半日前予測の関係でお尋ねします。5月運用開始前の長官会見で長官から府県単位に発表を絞り込むことの意義について、地方単位では的中していても、発生しなかった府県の人から見たら空振りだったと思われることもある、だから府県単位に絞り込むことの意義があるというようなお話がありました。ただ、今年度、半日前予測の発表状況を見ていると府県単位では出されていますけれども、ある種地方単位のような出し方、例えば、九州北部全域に発表というような出し方など、そういう半日前予測をされているケースが複数あったと認識しております。まだ出水期はこれから先もありますけれども、現時点で昨年度までの運用と今年度の運用で大きな変化を社会が感じているとはちょっと言い難い状況なのかもしれないと思っているのですけれども、そのあたり長官のご所見をお伺いできればと思います。

A:ご指摘の点は、つまり地方単位を府県単位にしたけれど、結局地方単位の中の県全部に発表している場合が多いのではないかというご指摘だと思いますが、確かにそういう事例もあると思います。
 個々の事例を検証することは当然必要ですけど、私が感じていることとしては、特に九州北部地方で地方単位の全ての県に出した事例が何回かあったと思います。梅雨時の東シナ海から梅雨前線に入り込む暖湿気というのは、一定の広がりを持っているので、その広がりの範囲内のところで見ると、そういう場合の九州北部地方という地域では、県を絞り込むのがなかなか厳しかったということだろうと考えています。ただ、その他の事例のところでは、5月28日の事例などでは、四国であるとか、東海地方のところでは県を絞って出せている事例もありますので、このあたりは、現在の予測技術の範囲内のところで、ケースバイケースで判断していくということだと思っています。

Q:災害というのは気象庁が出している情報など、全体に対する情報だけではなく、個々の場所であったり、危険性であったりというものにかなり左右されるものだというのが、松山市だけではなくて、実際それほど長時間の雨が続いたわけではないエリアでも土砂崩れであったり、道路の寸断であったりというものは、今回、この出水期でも起きていますので、そのあたり改めて各住民の方がその自分のいる場所の特性というものを理解するという重要性について長官からの呼びかけというかお考えをお聞かせ願えますか。

A:今お話があった通り、例えば、崖が崩れるという事例では、個々の崖が崩れるわけですので、それと防災気象情報との関係でみていきますと、気象庁が出している防災気象情報は、個々の崖に対する精度があるわけではないので、基本的には大雨警報であっても、土砂災害警戒情報をあっても、それは市町村単位といったものが基本になるところです。その中で、基準をどのような場所を踏まえて設定するのかというところは、地元の自治体と相談してきているところでありますが、当然基準を下げていけば、発表回数も増えていくわけですし、オオカミ少年的になる可能性もありますので、基準の設定の仕方というものは難しいところであると思います。そういった中では各住民の皆様には自分の住宅の周りの環境がどうなっているのかということをよく見ていただくことや、ハザードマップなどで、いわゆる危険な地域に指定されているということもわかりますので、あらかじめ把握をしておいていただきたいと思います。その把握していただくことにあたっては、普及啓発の一環だと思いますので、地元気象台が各自治体に協力して進めていきたいと考えております。

Q:今日の11時に九州南部で梅雨明けをしたと思うのですけれども、差し支えない範囲で、今後関東や全国的に梅雨明けするスケジュール感みたいなものが、大体わかればお伺いしたいです。

A:今の状況がどうかというと、前線は徐々に北上していっているところです。ただ、一方、今日などは、例えば発雷確率が全国的に高いということもありますし、大気が安定しているかというとそういう状況でもないところです。各地の梅雨明けについては、実際の気象の状況を勘案しながら判断していくしかないと考えています。

Q:この夏の暑さの見通しや改めて暑さへの呼びかけといいますか、熱中症や猛暑の対策をお聞かせいただけますか。

A:報道などもされていますが、相当数の方が熱中症になられている状況や、残念ながらお亡くなりになられた方もいる状況となっています。この後、段階的に梅雨明けしていくとしますと、本格的な夏の暑さになってきます。そういう意味では改めて暑さに慣れるということ、よく暑熱順化とか言いますが、適度に汗をかく機会を増やすなどの暑さになれる取り組みをする一方で、脱水症状などにならないように、屋外の活動などでは飲料水の準備や、日陰を確保するとか、対策を進めていただきたいと思います。熱中症については、それぞれの方々の体調や行動、作業環境等の要素が複合すること等が原因となりますので、日ごろから最新の気象状況であるとか、環境省のホームページで公開されている暑さ指数などもご活用いただいて、状況に応じた熱中症対策をとっていただきたいと考えています。

(以上)