長官会見要旨(令和6年5月15日)
会見日時等
令和6年5月15日 14時00分~14時35分
於:気象庁記者会見室
発言要旨
クールビズの期間に入りましたので、ノーネクタイとしていますのでご了承ください。冒頭私から、2点述べさせていただきます。
1点目は、出水期が近いということで、大雨の備えについてです。
これから本格的な出水期を迎えます。
本日11時に報道発表いたしましたように、令和4年6月から実施しています、線状降水帯による大雨の可能性の半日程度前からの呼びかけについて、いわゆる予測でありますが、これまで地方単位を対象として呼びかけていましたけれども、今月5月28日から、府県単位を基本に対象地域を絞り込んで呼びかけを行う改善を実施いたします。
これにより、住民や自治体が、今後線状降水帯による大雨災害のおそれがあることに対して、より我が事感をもって対応いただくことが可能となると考えています。
この改善は、本年3月に強化したスーパーコンピュータを用いて予報時間を18時間に延長した水平解像度2kmの局地モデル、LFMと呼んでいますが、この計算結果など、新しい技術を取り入れることにより実現が可能となったものです。
その精度については、4月の会見の際に5月の会見でお話するとしたものですが、令和4年に地方単位の呼びかけを開始したときに想定していた精度と比較したところ、”適中率”を維持したまま”見逃し”を減らせる見込みとなっています。具体的に言いますと、適中率は4回に1回程度、見逃しの方は少ないほうが良いわけですけれども、地方単位を始めた時には3回に2回程度だったわけですが、これを2回に1回程度に減らせる見込みです。
この半日前からの呼びかけや「顕著な大雨に関する気象情報」といった線状降水帯に関する情報だけでなく、大雨警報やキキクル等、段階的に発表する防災気象情報全体を適切に活用いただき、大雨に備えていただければと思います。
2点目は、「気象業務はいま」という刊行物についてです。
6月1日は気象記念日としていまして、これは明治8年、1875年の6月1日に気象庁の前身となる東京気象台で観測を開始したことを記念するものでして、今年は149回目ということになります。
気象庁では、毎年この記念日に合わせて刊行物である「気象業務はいま」を作成しています。これは気象庁の最新の取組あるいは今後の展望などについて取りまとめて、気象業務の全体像について広く皆様に知っていただくために刊行しているものです。
今年は「気象庁の気候変動に関する取り組み」あるいは「令和6年能登半島地震」を特集として準備を進めています。皆様にも是非ご覧頂ければと思います。
先ほど気象記念日が149回目と申し上げましたが、来年は、1875年(明治8年)に気象業務を開始して以来150周年の記念の年となります。この節目を迎えるにあたり、現在様々な企画をしているところです。
ひとつは年史の編纂です。気象庁では、100周年の節目にあたる1975年(昭和50年)に、それまでの気象業務の歴史をまとめた「気象百年史」を編纂しました。以降これまでの50年で、先人の方々が築き上げた100年間の歴史を継承し、発展させる形で、更なる歩みを続けてきたというところです。
50年前の時点では、例えば、気象衛星「ひまわり」はございませんでしたが、ひまわり1号はその後、昭和52年、1977年に打ち上がっています。そのほか、アメダスは運用を開始したばかりで、数値予報は導入済でしたが、コンピュータの性能は飛躍的な発展を遂げています。大きな気象災害、地震・津波・火山による災害も経験してきた中で、技術の発展に支えられ、気象庁が発表する情報の内容や伝え方の改善を重ねてきたところです。
このような、社会の流れの中での気象業務の歩みをとりまとめまして、将来の更なる発展の基礎資料とするため、「気象百五十年史」の編纂を計画しています。
年史の他にも、記念ロゴやキャッチコピーの作成や気象科学館の展示強化などの準備をしており、6月1日には国立科学博物館において気候変動をテーマとした講演会も行います。
さらに、今年は、気象庁のマスコットキャラクターである「はれるん」が誕生して20周年ということでございます。そういうことで本日は「はれるん」も同席しているということです。
これを踏まえ、気象業務150周年の1年前、プレ・イヤー企画として、例えば、6月1日の講演会に「はれるん」が参加するなど、気象庁内外で行う様々なイベントや、本日開設する「はれるん」のSNSなどを活用して、「はれるん」が登場する機会をこれまで以上に設け、子どもたちを中心に気象や地震・火山、気候変動など自然現象への関心を高めていただく活動をしていく予定です。
こうしたことをはじめ、この節目に様々な普及・啓発の取組を強化していくことで、社会全体にこれまで以上に防災意識などが根付いていくことを期待しているところです。
私からは以上です。
質疑応答
Q:幹事社から1点お伺いします。線状降水帯の予報についてですけれども、府県単位の予報になるということで居住する府県などに予想が出た場合、どう受けとめ、どう行動すべきなのか。呼びかけがあればよろしくお願いします。
A:線状降水帯による大雨の可能性が呼びかけられた場合、基本的に、地方単位で呼びかけていたときと、大きく変わらないところは、大雨災害に対する心構えを一段高めていただきたいということです。
具体的には、住民の方々には大雨災害に対する危機感を早めに持っていただき、ハザードマップや避難所、あるいは避難経路の確認等を行っていただくこと、市町村の防災担当者の皆様には、避難所の開設の手順であるとか、水防体制の確認など災害に備えていただきたいと考えています。
変わるところといいますと、従来よりも対象地域を絞り込んで呼びかけを行うということになりますので、今後、線状降水帯による大雨災害の恐れがあることをより我が事感、いわゆる自分の近くで起こりそうなことだという感覚を思って対応していただけるのではないかと考えています。
一方で、留意していただきたいこともありまして、府県に絞り込んで出していくということは、地方単位での発表時と異なり、対象とならない府県も出てくるわけです。発表対象にならなかった府県は安全なのか、という話もあるわけですけど、これは安全とは限らないということになります。先ほどお話した通り、精度としても、見逃しが2回に1回程度あるというものですので、一定の精度は確保できるだろうと考えているということですが、府県単位のとこで対象地域にならなかったから安全というのは、必ずしも言えないということになってしまいます。そういう観点では、線状降水帯の情報を見聞きした場合には、大雨警報やキキクルなど、段階的に発表される防災気象情報全体を適切に活用いただきたいというふうに考えております。
気象庁としても、今回新たな運用を始めるわけですけれど、その周知に当たってはこういう点も留意しないといけないというように考えているところです。
Q:先月長官会見で、この線状降水帯についての予測精度の話題の中で長官が「発表する対象の範囲を狭めるということは、地方単位で出してきたときよりも、一旦は精度が下がって見える部分もある」という発言されましたが、この言葉だけ聞くとなんか前より適中率が一旦落ちるかもしれないというよう聞こえてしまうのですけれども、どういう趣旨のご発言だったのか、改めて、教えていただいてもよろしいでしょうか。
A:昨年は地方単位で出したわけですけど、昨年については、当初想定していたよりも、成績が良かったところがあります。昨年どうだったかというと、適中の方は運用開始当時の想定では4回に1回程度としていましたが、実際には昨年は22回中9回ということでしたので、つまり25%の適中率だろうと考えたところで、40%ぐらい適中率があったという状況でした。見逃しの方は、地方単位で当初始めるときに3回2回程度は見逃しがある、つまり65%ぐらい見逃しがあるだろうとしていた中、見逃しが23回中14回だった60%ぐらいで、こちらは想定した程度でしたが、適中率がよかった点で、昨年は当初想定より良かったといえる状況でした。
精度はどんどん良くなっていくという見方をすると、今度は予測の範囲を狭めて、厳しい予報することになりますが、想定している適中率は、昨年、地方単位で開始したときに想定していた25%程度の適中率と考えていますので、成績の良かった昨年の適中率40%の実績と比べると、そこは一旦実績の精度は下がって見えてしまうのではないかという趣旨で、先月お話したところです。
Q:線状降水帯の予測精度に関することで質問したいと思います。精度検証に関して、従来、前3時間積算降水量150ミリを基準に適中率に関して補足的な説明をされてきたと思います。最近これを100ミリの例も使いながら表現するようなことも考えておられるようですけれども、このあたりはどのようにお考えなのでしょうか。
A:線状降水帯の下では基本的に大雨になるということになりますが、ただ、結果的に線状降水帯にならなかったら大雨にはならないのですかというところがあります。線状降水帯はいくつかの条件をANDで満たしている必要がありますが、線状降水帯とは呼ばないものでも大雨になっていることはありますということで、線状降水帯の適中率の説明を補足するものとして、線状降水帯を予測したが、結果的に線状降水帯までには至らなかったけども、大雨にはなりましたという基準として、前3時間積算降水量150ミリをこれまで用いてきたというところでありました。ご質問の件は、先日実施した気象庁記者クラブ向け説明の際に、その説明の中で前3時間積算降水量100ミという基準があり、この基準の違いを疑問に思われたということだというように受け止めています。
これまでの150ミリじゃなくて、なぜ100ミリになっているのですかというところかと思います。これについては、まず、線状降水帯とするには、条件がいくつかあって、降水量の関係でいうと、その降水帯で前3時間積算降水量の最大値が150ミリ以上で、さらに前3時間積算降水量が100ミリ以上の面積が500平方km以上という条件があります。ここで、線状降水帯にならなかった時での大雨ということの基準を考える際に、ある場所の極大値でみるのではなく、その大雨の範囲全体を含めて見た方が適切なのだろうということです。このような議論が庁内であり、私も報告を受け、なるほどそうしましょうとした経緯がありました。
ただ、当日の状況を聞いたところ、150ミリから100ミリの基準に変えることについて、こうした背景を含めて、丁寧な説明が足りないところがあったのではないかと率直に考えているところです。今後については、これまで150ミリとしてきた基準を100ミリに変えていくということも含めて、当然ながらそういった基準の違う説明であるということについて、例えば、ホームページで公開していく場合でも、しっかりと説明をして、なぜ100ミリにしているのかという説明もきちんと記載して、正しく理解いただくということが大事であるというふうに考えているところです。
Q:ありがとうございます。質問の趣旨は今お答えいただいた部分に含まれていますけれども、精度を検証するにあたって従来用いてきた物差しと違うものを用いるのであれば、そのあたりはきちっと説明をしていただきたい、特に理科の官庁である気象庁としては、そのあたりはしっかりこれまでもやられてきたと思うので、それに則ってやっていただきたいというふうに思ったのと、今回その150と100に関して言うと、150で見ると適中率が3回に1回なのに100で見ると3回2回という数字で、後者の方だけ説明資料に載っていたので、ちょっと疑問を持った次第です。多少意地悪な見方をすれば、印象操作というように見ることもできるので、そのあたりをしっかりやっていただきたいなと思った次第です。
A:ご指摘の通りかと思いますので、今後とも、しっかりとした説明とともに、評価の基準などを用いていくこととしたいと思います。
Q:適中率の話ですけれども、今回、適中率は4分の1で維持される見込みだというお話だったかと思うのですけれども、基本的に精度向上は大きく分けて二つの路線があるかなと自分は考えていまして、適中率を上げてほしいっていうところと、今回のように細かく予想してほしいっていう、この二つの路線があると思うのですけれども、そこで適中率を下げずに、その細かく予想するっていうところを狙って、かつそこはそれぞれの予想を住民の方々には我が事として持ってもらうっていうところを狙っていると思うのですけれども、なぜ我が事として持ってもらうべきと考えてらっしゃるのかを、もうちょっと踏み込んだ説明がいただきたいなと思っています。つまり範囲を狭くしなければ適中率は技術の向上でどんどん上がっていくと思うのですけれども、その数字を上げていくのではなくて、範囲を狭くして、我が事を持ってもらうところを目指しているという、何でそういうふうにしていくべきなのかっていうところをもうちょっと踏み込んだご説明いただけますでしょうか。
A:これまでは地方単位ですので、九州北部地方だとか近畿地方とか東海地方、関東甲信地方、こういう形で出してきたわけです。これまではそもそも技術的に、それより絞ることが難しかった、つまり、それより絞ったら、もう適中率がグッと下がってしまうということがあるので、絞り込んだ範囲で出すことが困難だったということです。それから、広い範囲に出すということは、逆に言うと、特定の場所から見ると空振りも多いはずです。つまり、何々地方へ出していて、本当にその地方全部で線状降水帯が発生するのかと言ったらそういうことはこれまでの事例を見てもおわかりの通り、それは複数の県で発生することはあっても、その地方の範囲で網羅的に発生するということはないので、そうすると地方単位では適中していても、空振りだったと思われることもあるということです。
こうした形で、空振りと思われることが多いということは、受け止める側としては、多分今度も自分のとこは大丈夫なんじゃないかなとか、そういう意味でどうしても危機感というところが、上がらないというところは、これは心理として、そこは避けられないと考えています。
そういった考えのところで、府県単位で発表することによって、例えば、関東甲信の場合、関東甲信地方のどこかということではなく、千葉県なら千葉県、茨城県なら茨城県とか、自分の住んでいる府県名が出ることによって、これまでより我が事感をもって準備をしていただけるのではないかということを期待しているということになります。
Q:ありがとうございます。今おっしゃっていた空振りというのは、実際にその空振りとして積算されるものでなくて、地方単位で発表して、その地方で発生して、気象庁的には当たっているけど、自分の県で見た場合は、当たってないって感じる人が多いということでしょうか。
A:そういうことです。つまり何々地方と発表して何々地方で発生したら、それは気象庁での評価としては適中とカウントするわけですけど、実際のところ、それぞれの地方の住民の皆様から見れば、自分のところで発生したかどうかっていうのが当たったかどうかということになると考えていますので、まさに今おっしゃるような、その趣旨のところです。
Q:先日この夏から秋にかけてラニーニャが発生する可能性が高いという予想が出て、気象庁だけじゃなくて、世界の気象機関もそういったものを出していますけれども、これの結果としての今年の夏から秋にかけての注意すべき点というのがあれば、おっしゃってください。
A:昨年の春から続いているエルニーニョ現象まだ残ってはいるようですが、近いうちに終息して、その後夏から秋にかけてはラニーニャ現象が発生する可能性が次第に高くなるという見込みです。これは海洋の現象なので、その現象が大気の方に影響を及ぼすのは、ちょっと遅れがあるので、しばらくはエルニーニョ現象の影響が残ると思います。その後はラニーニャ現象が発生して発達した場合にはその影響が次第に日本を含む世界の天候に現れてくる可能性があるというふうに考えています。
基本的には、エルニーニョでもラニーニャでも平均状態からずれるということになるので、それからずれた極端な現象が起こりやすくなるということだと考えますので、注意深く監視していきたいと考えています。
以前は、エルニーニョ現象は、暖冬や冷夏で、ラニーニャ現象は暑い夏や寒い冬になるというような一般的な傾向があるというふうに言われたと思いますが、そういう単純なものでもないと考えますので、これはまさに世界中で注目しているところで、いろんな監視がなされるし、いろんな学者も知見を踏まえてお話になったりすると思いますので、そういうところも参考にしながら、気象庁としてもしっかり今後も見ていきたいと考えております。
Q:単純に今、かつて言われたみたいに猛暑ということではないけど、極端な現象は起きる可能性が高いので、普段以上に注意をしてほしいということでしょうか。
A:普段からもちろん注意はしているところですけど、そういう観点で注視していくってことになります。
Q:まず線状降水帯についてなんですけども現状の適中率が4分の1、見逃しが2分の1いうことですけど、これに対する評価っていうのはいかがでしょうか。ワーキングでそういう議論をされているのかもしれませんが、改めてその精度高いのか低いのか。普通なのかというか、どういうふうに評価してらっしゃるのか教えてください。
A:精度の高い低いについて何と比較するかということが非常に難しいところです。今回は、地方単位の予測を始めたときと比較してみましたということで、それと比較して適中率は同程度で、見逃し率はそれよりも低くなると考えています。それが良いか悪いかっていうところというのは、絶対的な評価とはすごく難しくて、先ほどお話しましたが、言い方としては、一定の精度が確保できる見込みですと、こういう言い方となると考えています。
Q:もう一つが合わせて発表がありましたアンケートについてなんですけれども、住民の認知度が5割を下回っている、一方で自治体の方は割と理解をして防災に活かしているという結果だったと思いますが、それに対しては長官としてはどのように評価を受け止めていらっしゃいますでしょうか。
A:国民の皆様から見れば、どれだけ馴染みがある言葉になっているかということだと思っています。例えば、緊急地震速報というのは、それも出ない方がいいのでしょうけど、一定の頻度で出ているので、緊急地震速報を知らない方という方はあまりいらっしゃらないのではと思っています。ただ、やはりその頻度が少ないもの、例えば、南海トラフ地震臨時情報は認知度が低いということがあると思います。線状降水帯はその中間ぐらいの印象です。
情報の改善はもちろん進めていくわけですけど、普及、啓発、周知というもの、南海トラフ地震臨時情報もそうですけど、機会をとらえて、説明をしていく方法もいろいろ考えないといけないと思います。ホームページで説明するなどももちろんありますけど、みんながホームページ見てくれるわけでもないので、いろいろな機会、もちろん講演会とかポスターだとか、そのうちの一つとして報道機関の皆様のご協力をいただくところも、非常にウエイトが高いと思っていますので、引き続き、皆様のご協力をいただければ大変ありがたいと考えています。
Q:ありがとうございます。それと昨日の防災気象情報の検討会に関してなのですけれど、矢守先生でしたか最後の方で人生の中で一番難しいパズルであったと、まとまらなかったことを受けて、最終的に取りまとめるご自身の立場として、そういう表現でお話されたのだと思いましたけど、長官としては昨日の議論、そしてまとまらなかったという最終回の結果というのをどのように受け止めいらっしゃいますでしょうか。
A:率直に言えば、これが正解というものがなかなかないので、そうなると当然委員の方もいろんなお立場の方がいらっしゃるわけなので、学識経験者の立場の方から見ればとか、報道関係の方から見ればとか、いろんなお立場のいろいろなご意見があるということだと思います。
それを一つに絞っていくことは、やはり容易じゃないなと改めて感じたというところではあります。
ただ、昨日座長より、まとめは座長に一任でとおっしゃっていただきましたところです。これは、意見としてはもう出尽くしたというお考えのもと、この後は意見をどう反映し調整するかだということで一任いただきたいとおっしゃられたのだというように私は理解しています。
本年6月、来月めどに最終取りまとめを仕上げていきたいと考えていますので、座長一任となっていますので、事務局として気象庁も最大限のサポートをして、それをまとめていくお助けをしたいと考えています。
Q:ありがとうございます。最後にちょっと些末な話ですが、150年史のお話はどこの部署が担当するのでしょうか。
A:一定のグループで対応しています。詳細は後ほど担当に確認ください。
(以上)