気象庁地震観測所技術報告 第3号 1~11頁 昭和57年2月
松代における地殻変動の連続観測(Ⅱ)* -主として改良更新後の観測について-
上地清市・山岸要吉・柏原静雄
1. はじめに
当所における地殻変動の観測は昭和24年(1949年)の石本式自記傾斜計からはじまり,昭和26年には鉛管を用いた長さ94mの水管傾斜計の観測が開始された。これらについては,山岸・泉・相原(1976年)による報告があるが,そのあと幾度か測器の改良と更新がつづけられてきた。また観測坑も第二次大戦末期に,軍の施設として掘削された壕をそのまゝ利用したため観測坑としては不備なところもあって,環境の改善に努力がなされてきた。測器類の改良や環境の改善等については,浜田・柏原(1981年)で詳細に述べられている。その後第4次地震予知計画に関する測地学審議会の建議に基づき昭和54,55年度に画期的改良と更新が行なわれた。ここでは,整備された測器の現状と得られた観測結果の特徴について報告し,併せて読取式と自記式水管傾斜計との比較観測から自記水管傾斜計の安定性についても述べる。なお後半では伸縮計と傾斜計による地殻潮汐(M2分潮)の振幅の時間的変化を理論値と比較し,地震予知的な面から検討を行なった。
2.測器および観測状況
観測坑内における各測器の種類を表1に,その配置を図1に示す。測定原理,データ収録方式等については,山岸・柏原(1981),関(1981)によって詳述されている。本節では,これまで収録されたデータを現象的にみた場合の特徴と観測系の現状を報告する。
1)伸 縮 計
センサー部の設置工事が終了して約2ケ月後に,伝送および処理システムが整備され,試験観測を経て1980年6月1日から本観測が開始された。南北,東西の両成分とも100m,70m,30mにそれぞれ観測点を設置し,各成分での複数観測を行なっている。100m観測点は両成分とも更新前の基台をそのまま使用しているが,30m,70mは新設基台である。いわゆるドリフトと考えられるものは,南北成分の70m点で,わずかに認められる程度で,基台新設による影響は小さい。
デジタル化されたデータは2×10-11/digitの高感度で収録されている。伝送系のダイナミック・レンジは約105であり,歪量にして10-6程度の変化があればオーバー・フローとなるため,差動トランスセンサーの直線性が保てる範囲内で観測を続けるのには,この時点でセンサー部の調整をする必要がある。これはタイプライターに打ち出される定時の値やアナログのモニター記録によって監視ができ,傾斜計についても全く同様である。現状では,台風や集中豪雨時等,降水量の比較的多い時に注意を要する程度となっている。
更新後としてはこれまでに,約600日間のデータが収録されているが,この期間における経年変化は,図2にみられるように比較的小さく,ほとんどフラットな変動を示している。なお,図2は以前との関連性をみるために示した月平均値の変化で,途中のブランクは,機器更新のための欠測期間である。1976年以後,両成分とも10-6/年以上の割合で縮み傾向を示しているが,更新後はほとんど変化がない。更新前の相対的に大きい変化は,その原因として,坑内の温度変化,センサー・エレクトロニクスの信頼性等が考えられている(浜田・柏原;1981)。また,1981年8月の台風15号に伴なう175ミリの降水量の影響は,図2でみる限り変動幅が小さい。1976年以前の南北成分に現れている降雨の影響と比較すると,更新後の変動幅は1/2以下になっている。その原因としては,観測環境の変化 計器類の更新による機械的ノイズの除去および安定性の相違等が考えられる。
気象条件等の外的要因によるデータの乱れについては,これまで数多くの報告がある。当観測所においても,特に降雨による影響は大きく現われ,最大は南北30mの観測点で変動幅10-6に近い値を示している。同図にみられるように,過去のデータにおいても南北成分での影響が大きい。原因としては,南の固定端付近の坑道の一部分に浸透水の流入し易いことが認められている。しかし,その量的見積りや流入機構の解明は難しく,ひとつの方法として,現在,地下水の水位観測を行なっている。次に更新後の観測結果を展望する。
1981年の2-3月には水管傾斜計の設置工事があり,坑内温度の変化,欠測等によるデータの乱れはあったが,グラフィック・ディスプレイを利用して補正,補間を行なった。結果を図3,4に示したが,直線部分は欠測期間である。また,短時間の欠測や人為的要因によるデータの乱れも同じく補間,補正がなされている。同図には,南北および東西の100m測点のみをそれぞれ示したが,前述のように南北成分で降雨(最下段)の影響が大きく現われている。その変動は縮みの変化を示す場合が多いが,1980年7月下旬や1981年8月の台風時のように逆センスを示すこともあり,また,降水量がかなり多くても,ほとんど影響を示さない場合もある。間隙水圧の増加によってこれらのすべてを説明できないことは,浜田・柏原(1981)によって指摘されている。従って,含水地表層の雨水による浸透率の増減や表面流出量の変化などに加えて,間隙水圧の増加による地殻の局所的変形等の総合的要因がもたらすものと考えられる。
2)水管傾斜計
読取式水管傾斜計は連続的な測定値が得られないとか,分解能が悪いなどの短所を持つが,ドリフトの入る余地が少なく,長期的観測に適している。当観測所では,南北40m,東西40mの読取式水管傾斜計の観測が1965年から続けられ,数多くの貴重な結果を残している。1970年以降を前掲の図2に示す。1979年後半の東西成分にみられる急激な変化および1980年前半の南北成分における欠測は,ガラス管を連結するゴム管の劣化,水漏れ,修理等による不良データである。経年的にはそれぞれ,S-up,W-upの傾斜変化を示しているが最近の変動幅は小さい。
さて,1978年以来,フロート式自記水管傾斜計によって,南北100m,東西60mのスパンで観測を行なっている。これは名古屋大学からの協力により観測しているもので,連続したアナログおよびデジタルデータがとり込まれ,測器の特性や長期安定性については既に報告れされている(志知他,1980)。Transducerにはマグネセンサー(ソニー・マグネスケール社製,セットB2)が使用され,両成分とも0.3秒角程度の変化があれば,センサー部の調整をするようにしている。センサー部はマイクロメータを利用してフロートアームの変位を測定することにより,電圧感度およびその直線性が検定でき,さらに,中間点に設置された水位調整器を用いて水位を上下させ,両端の感度を一致させるように増幅器の利得を決める。デジタルデータの感度は両成分とも1×10-5秒角/digit,サンプリング周波数は1Hzだが,収録データは5分間隔の一分間平均値としている。
図3,4に示されるように約600日間の観測データを一見すると,この期間の経年変化は小さく,両成分とも0.1秒角以内に収まっている。設置後,約2ケ月間は大きなドリフトのあったことが報告されているが(浜田・柏原;1981),二年以上も経過した現在では無視できるほど小さい。
降雨の影響は東西成分で顕著に現われ,最大変動幅として,1981年7月始めには約0.1秒角であった。ほとんどの場合,W-upの傾斜変化として出現するが,1980年前半のようにほとんど変化が認められないこともあって,降水量に対する量的関係は明確でない。浜田・柏原(1981)は東西成分を横切る破砕帯の存在を指摘しており,その周辺の間隙水圧の変化を反映しているかもしれない。しかし,この期間にはE-pointのフロートに亀裂が生じ,8月末にはその交換が行なわれているので,機械的な不安定さも考慮しなければならない。一方,スパンの違いはあるが,南北成分では降雨に対してS-upの傾斜変化を示しており,その変動幅は平均して東西成分の1/3程度しかない。それらの変化量に較べて,台風による影響は両成分とも極めて小さく,また,伸縮計とも異なる変動を示している。これは台風以前の降雨による地殻の含水状態が二次的に影響を与えるものと思われるが,気圧変化やスケールの相違,前述のフロートの亀裂等との関連性についても調査する必要があろう。
なお,ここでは対象から除いたが,1981年4月には同様のフロート式水管傾斜計が新設され,南北100m,東西100mのスパンで観測が行なわれている。センサーの測定原理,データ収録方式等は全く同様であり,センサーの寸法が少し違うだけである。
3)泡式傾斜計
1978年,試験観測のために設置され,1981年9月まで観測が行なわれた。米国キネメトリクス社製(TMIB地中埋設型)で,坑内に直径15cm深さ1.5mの観測井を設けて観測された(浜田・柏原;1981)。センサー出力の感度は5mV/μradで,設置環境は良く,データは1×10-5秒角/digitで収録した。
図3,4に示されるように,約500日間の変化量は南北成分で約0.3秒角のS-up,東西成分では約0.2秒角でE-upの傾斜変化を示している。この結果はスパン100m,60mの傾斜変化を示す水管傾斜計の結果と一致しない。観測位置は図1のBU1で示されており,水管傾斜計とは約2mの高低差があるが岩盤は同質と推定される。1981年4月に同型の債斜計(図1のBU2で,設置場所はやや異なるが同質の岩盤内にある)が新設され,約6ケ月間の比較観測を行なった結果,両成分とも同じような変化傾向を示し,ドリフトもかなり小さい。従って,この測器による観測は測定点近傍の掻く限られた傾斜変化を示していると考えられる。
降雨の影響は南北成分で顕著に現われ,N-upの傾斜変化を示している(図3,4)。昨年8月の台風の際には,N-up,E-upの急激な変動があり,その変動幅は南北成分で約0.1秒角もあり,期間中最大であった。この擾乱は東西成分では約20日間で回復したが,南北成分では約35日経過した後も影響が残っていた。だがそこで比較観測が終了したのは残念である。南北成分では,1981年7月の二度の降雨に対してもよく対応し,水管傾斜計と比較すると,回復に要する時間の違いもよく現われている。
一方,メーカーの仕様による温度誤差は0.3%/℃程度で,坑内の恒温状態や地中埋設型という点からして,変動量に及ぼす温度の影響は無視できる。
以上,伸縮計および二種類の傾斜計による記録を,主として現象的な立場からみてきたが,一般的に地殻変動に及ぼす最大の影響としての降雨でさえ,立地条件をはぼ同じくする当所の観測坑内の各機器で多様性,複雑性を示す結果を与えることがわかった。今後は,得られた最終データが各種の原因を包含,累積しているものであることを踏まえ,観測の結果を正しく解釈する手法を開発してゆきたい。
3.自記水管傾斜計の記録に出現する擾乱と安定性について
1)坑内空気の移動による擾乱
マイクロメータで読取りを行なうために観測者が入坑したとき,水管傾斜計に与える影響については,浜田・柏原(1981)によって詳細に述べられている。昭和55年度で整備された水管傾斜計(WT5,WT6)は上記結果を踏まえて改善,更新された。例えば両端の水位測定部と中間の水位調整つぼを通気管(ビニールホース)で完全に連結したことも,その一つであった。
一方1979年以来観測している同一方式の水管傾斜計(WT3,WT4)は通気管を使用していない。この両者は同じ坑内の別の基台上に並列設置され,同時並行観測が行なわれている。図5にそれらの観測結果と坑内気圧および観測者が入坑した日(●印)をそれぞれ示した。
観測者の入坑による影響として通気管を連結してないWT4では水面の変動が1.5/μm~3μm(0.007秒角~0.015秒角)もあるのに比べ,通気管を連結したWT6は,0.5μm~1μmと約1/3に減少している。これは観測者が傾斜計に近づいたとき,通気管を経た空気の動きが測定端の水面に直接影響しないものと推定される。
しかし気圧の急激な変化,たとえば気象の前線の通過などに際しては,WT6に振動的なノイズが現われ,とくに坑内の気圧計が急激な減少(20mb/日)を示すときに明瞭で,振幅は最大で0.5μm程度となる。このノイズは図5でみられるように南北成分に顕著で,東西成分およびWT4の両成分には,ほとんど現われない。これは観測坑の構造上,空気の流れが南北坑道に卓越するためとも考えられる。坑内での気圧観測は現在,東西坑道だけで行なっているが,南北坑道にも増設してこの問題を調査する必要がある。またノイズがWT4よりWT6に顕著なのは,WT6においては通気管が両測定端を完全に連結しているためと考えられる。将来通気管をガラス管のような硬質材料を用いることによって,この振動的ノイズをかなり除去させることが出来ると考えている。
2)読取式水管傾斜計からみた自記水管傾斜計の安定性
新らしく整備されたフロート式自記傾斜計(WT6)と同一の基台上に設置した読取式水管傾斜計(WT5)は,自記水管傾斜計の長期的ドリフトの安定性を確め,そのドリフトを較正する目的で設置された(関,1981)。
初期的なドリフトがなくなった1981年8月23日から12月31日までの約4ケ月間における,フロート式自記水管斜計(WT6)両成分の連続記録と観測者が行なった読取式傾斜計(WT5)の読取値を図6に示した。マイクロメータによる水管傾斜計の読取りは個人的誤差があることや,また前述のように,入坑に伴なう1.5μmぐらいの動揺が生ずることを加味すると読取り精度は約3μm程度であろう。浜田・柏原(1981)は更新前の読取式水管傾斜計の精度は5μm程度といっているから,今回新設したWT5では精度が,わずかながら向上したことになる。
フロート式自記水管傾斜計(WT6)のこの期間におけるドリフトは,読取精度を一応3μm程度と考えて図6を全般的に比較してみると,両成分ともはとんど考慮するに及ばないといっても差支えない。従って,自記式傾斜計だけでも比較的長期間の変動パターンを,安定して捕捉し得る可能性が確かめられたといえる。今後は読取りのための入坑回数を極力減らして坑内の環境保全につとめ,さらに観測精度の向上を心がけていきたい。
4.地殻潮汐の振幅変化
地震の前兆現象の検出に地殻潮汐の振幅変化を用いる試みが行なわれつつある。また観測点近傍の岩盤の弾性常数が変らないかぎり,M2分潮などほ経年的に急激な変動がないことから,逆に潮汐の振幅変化は歪計や傾斜計の感度検定にも十分利用できる。したがって地殻変動観測において潮汐振幅の時間的変化を常時監視することは,十分意味のあることである。
浜田・柏原(1981)は更新前の資料を用いて地殻潮汐の詳しい調査を行なっている。ここではこの調査方法を用いて,今後の調査の目安すを得るために行なった,M2分潮の振幅変化の解析結果を示す。M2以外の分潮,振幅変化の要因などについては,さらにデータの蓄積をまって調査を行なう予定である。
1)解 析
解析に用いた資料を前掲表1に示す。1981年2~3月の資料は水管傾斜計設置および伝送システム改造(1981年3月)により,欠測や人工的な擾乱が大きなため解析から除いた。
図3,図4からわかるように各成分の長時間変動は潮汐振幅そのものよりかなり大きい。まずこの長時間変動を除去するためにフィルター処理をほどこした。前調査(浜田・柏原(1981))では主としてPertzevの方法を用いたが,ここでは矩形フィルターによった。フィルターは通過帯域のリップルが十分小さく,除去帯域の減衰量が大きいことが望まれる。一般的にリップル防止はフィルター係数にwindowをかけることで行なう。ここで用いたフィルターではwindow係数として
σ(N,k)=Sin(πk/N)
(πk/N)
(k=1,2,3……,N)
を用いてフィルター係数の3重平滑化をはかった。フィルター特性は図7に示すように,通過帯域のリップル幅0.1%以下,長時間帯域(約3日)での減衰量約40dBで,ほぼ満足する結果となっている。
潮汐の振幅と位相の算出には最小自乗法を用いて・M2,S2,N2,Kl,01の主要5分潮を解析した。計算は30分サンプリングデータにフィルター処理をほどこした後,1時間毎データの29日分を単位解析区間として,10日分ずつずらして行なった。欠測および異常データはあらかじめ補間,修正をほどこした。
最終的な振幅変動は理論潮汐を求め,観測データと同様な方法で5分潮の振幅を算出し,観測データ解析結果に補正をほどこして求めた。
本調査期間中各機器は伸縮計東西成分,水管傾斜計(W4)を除いて安定して動作していた。伸縮計東西成分は1980年12月頃から漸次感度が低下し,1982年3月の検定結果では約35%変化していた。この原因は石英管自由端末に付けた歪力発生器(山岸,柏原(1981))の磁石とコイル間の摩擦によることが判明した。水管傾斜計(WT4)は東西成分のフロートに亀裂が生じ,1982年8月にフロートの交換,感度の再設定を行なった。
2)解析結果
図8に伸縮計の南北,東西両成分の各観測点におけるM2分潮振幅変化を示す。なお図中の空白期間は水管傾斜計設置のために,解析から除いた部分である。
南北成分各観測点(STl,ST2,ST3)の振幅変化はよい相関を示しており,個々の変化がセンサーや増幅器等の不安定さに起因するものでないことがわかる。1981年237~257日に見られる大きな変動(STl,ST3)は,台風15号に伴なう大雨で観測坑の一部に浸水があり,約2時間停電した影響によるものである。
東西成分は前述したとおり,この期問感度の低下があったために,当然潮汐振幅は図のように減少しているが,その振幅変化は感度の低下した量にほぼ一致している。しかし各観測点間での相関は,南北成分と同様に高く,差動トランスや増幅器等の安定性の良いことがわかる。
各観測点の振幅値は各基線長により,南北成分で約20%,東西成分で約15%相違している。各センサーの相対感度差は5%以内であることから,この相違は基線長によって潮汐応答が異なることを意味する。
図9は傾斜計の結果で,工事前の期間にWT4,BUlを,工事後にWT4,WT6を示した。振幅変化は各器械問でよく対応している。とくにWT4とBUlは設置場所が異なる(図1)にもかかわらず高い相関を示しており,振幅変化が観測者の入坑による人工的擾乱と関係ないことがわかる。WT6における振幅変化の割合は工事後の動作安定した時期で2~3%で伸縮計の1/2程度である。
理論的に求めた,ひずみと傾斜の潮汐振幅の変化率を図8と図9に併記した。各成分の変化割合は2~3%で,変化の山・谷が観測データから求めた傾向にほぼ対応している。
測器の動作が安定した1981年後半の資料に,理論値から求めた振幅変化分を補正すると図10のようになる。各成分の変化の割合は水管傾斜計東西成分で1.5%,同南北成分で2%,伸縮計南北成分で5%程度になっている。
今後観測データの十分な管理および観測坑の環境保全に努めれば,水管傾斜計で2%,伸縮計で5%程度の精度で,潮汐振幅変化を監視できることが確かめられた。
6.おわりに
1)伸縮計と傾斜計は改良,更新がつづけられ1982年3月現在の状況では,伸縮計がスパン100m,70m,30mの複数観測が東西及び両成分でそれぞれ可能になった。傾斜計はフロート式自記水管傾斜計,読取式水管傾斜計,それに泡式傾斜計が同一坑内に併設設置され,各測器の比較検証を行ないながら観測が出来るため,信頼度の高い観測データが得られるようになった。
2)フロート式自記水管傾斜計は,同じ基台に設置した読取式水管傾斜計によって,その安定性の高いことが確かめられた。今後は読取りのための入坑回数を極力減らして,観測坑の環境保全を計り,観測精度の維持,向上につとめたい。
3)伸縮計による,M2分潮の各測点での振幅値を,各センサーの感度差を考慮した上で比較すると,歪場の微細な変動を検討するに有意と思われる相違が認められた,またM2分潮の振幅変化の割合は,それぞれ水管傾斜計でほぼ2%,伸縮計で5%程度の精度で得られた。今回の調査期間にはこの附近で顕著な地震活動がなく得られた値の信びょう性を確かめることはできなかったが,これを基準として今後さらにデータの蓄積を重ね地震の前兆現象との関連性を究明したい。
4)立地条件がほぼ同一とみられる当所の観測坑内でも,気象的要因によるノイズの形が観測点毎で相違し,各地点の記録を同一基準で扱うには困難を伴うので,記録に与える多様性の原因を個々に分析してゆく必要を感じた。
謝 辞
本報告文を読んでいただき有益な助言をいただいた山岸登主任研究官と図面の作製に協力をいただいた親松竹子氏に厚く御礼を申し上げます。
参考文献
志知龍一・奥田 隆・吉岡茂雄(1980)‥フロート変位型自記水管傾斜計の製作,測地学会誌,26
関 彰(1981):傾斜観測装置の整備について,気象庁地震観測所技術報告,第2号
浜田信生・柏原静雄(1981):松代における地殻変動観測に関する諸問題について,験震時報第45巻第3~4号
山岸 登・柏原静雄(1981):ひずみ地震計改良更新の現況と観測結果について,気象庁地震観測所技術報告,第2号
山岸要吉・泉 末雄・相原至二(1976):松代における地殻変動の連続観測結果について,験震時報第41巻 第1~2号
*Observation of CrustalDeformation at Matsushiro(Ⅱ);“After Improvement and Renewalof the Quartz-Pipe Strainmeter, the Water-Tube Tiltmeter and the Bubble Type Tiltmeter, Chiefly.”
by Kiyoichi UECHI, Yohkichi YAMAGISHI and Sizuo KASHIWABARA.