気象庁精密地震観測室技術報告  第19巻 143~150頁 平成14年3月

歪地震計伝送装置の更新に伴う地殻変動のデータ処理

涌井仙一郎・西前裕司・徳本哲男・古館友通・舘畑秀衡

Crustal Movement Data Processin gwith Ronewal of the Strain Seismograph Telemeter System

Sen-ichiro WAKUI,Yuji NISHIMAE,Tetsuo TOKUMOTO,Tomomichi FURUDATE and Hidee TATEHATA

1.はじめに

 当室では1980年に石英管伸縮計,水管傾斜計の観測測器の改良更新を行い,それに伴って地殻変動関係の観測データをリアルタイムで当室の解析室まで伝送,解析処理をするシステムが整備された.それ以来,長年にわたり観測データの蓄積を行っていた.

 しかし,この伝送装置の収録部である8インチフロッピーディスク装置の機械的部分に故障が発生するようになり,修理部晶や代替品がない等のため欠測が長期化するようになった.このことから装置のバックアップシステムの必要性に迫われて,地殻変動観測データの収録システム[徳本・他,(2001)]が臨時に構築され,2000年1月から,直接パソコン(以下PCと略す)にデータが収録できるようになった.2000年8月に8インチフロッピーディスク装置の重故障により旧伝送装置での収録が不可能となった.

 歪地震計データ処理装置は1988年にミニコンによる処理装置の更新[細野・三上,(1988)]が行われているが,本更新までの間は旧伝送系のフォーマット形式によるデータ解析,補間作業を行い,データの収録ならびにデータ処理を行っていた.

 本庁地震火山部の関係者等の努力により装置の更新が実現し,2001年3月に本装置を設置する事ができ,4月から本運用を行っている.本稿では更新された新しい装置の概要について報告する.

 なお,伝送装置の更新に伴い,データ解析装置におけるデータファイルの作成,表示,解析ツール等は当室で大幅な改修や開発を行ったので併せて報告する.

2.機器装置の概要

 地殻変動観測データは1Hz,32cbと5Hz,16cbの2種類があり,両方とも24ビット伝送である.大坑道にある送信部からは既設の光ファイバーケーブルを用いて,群列処理室に設置されている群列受信部に伝送している.受信した観測データには時刻データを付加し,地殻データ処理装置に転送する.その装置の概要をFig.1に示した.

 5Hzサンプリングデータは地震波の長周期成分(LP波)を入力して既設群列地震観測装置で地震波形の験測や解析ができるように,既設フォマッターへ転送している.

 地殻データ処理装置ではモニター表示及びフォーマット変換を行い,オンラインデータの収録のほか,アスキー形式のファイルとして出力する.データ収録時には入力データをチェックし,異常時にはユーザーにメッセージで報知する.ネットワーク接続により既設のデータ解析用PCに定時転送するとともにアナログユニットによるD/A変換をおこない常時モニターに出力を行っている.

2.1. 歪地震計伝送装置

 GPIBシステムターミナル(MPTR)送信装置では,受信部から送られる1pps信号に同期をとる調歩同期方式である.1Hと5Hzサンプリングによる24ビットAの変換後,光モデムを介して送信する.

 受信装置には既設群列伝送装置内にテレメータ・インターフェース基板を増設した.既設の群列地震処理装置で波形処理が行えるように既設フォーマットの指定するアドレスに転送する.5HzサンプリングLP波形チャンネル遅延時間はディレイメモリー基板を用いて,4秒遅延の補正を行い,データの整合をとっている.また,送・受信の動作状況,監視状態の表示を行っている.

2.2. データ処理部(host名:SSEWS)

 受信装置からの1Hz地殻変動データを毎秒受信してデータ収録を行う.データ受信時においてデータに付加されるSV信号を監視し,エラー出力を行うと共に入力したデータをディスプレイ画面に波形表示等を行っている.このデータの流れをFig.2に示した.収録する地殻変動データファイルは次の3種類である.

2.2.1. オンラインファイル

 データ収録は1秒毎に1レコードバイナリ形式で収録し,ヘッタ部とデータ部で構成されている.40日分をサイクリックファイルにして保存データ量を制限している.

2.2.2. 自動収録ファイル

 オンラインファイルからフォーマット変換後,10分毎にアスキー形式で自動収録し,1日1ファイルを作成する.1ファイルは40日間保存して,これを超えたら自動削除される.ファイルの構造は1レコードにws時ws分ws秒 年 月 時 分 秒(1/100)秒 データ1cb,2ch,3ch・・・(収録ch数)の形式となっている.wsはワークステーションの時計時刻である.これと伝送装置の両時刻を1レコードに収録している.

2.2.3. マニュアル収録ファイル

 収録期間,収録チャンネルの指定により,オンライン波形データからフォーマット変換後,アスキー形式でマニュアル収録ファイルを作成する.このファイルにはSSEWSあるいは伝送装置どちらの時刻を採用するか選択機能があり,時刻データ異常等にデータ時刻の修正,データの復活や表示を可能としている.

2.2.4. その他の機能

①パラメータ管理

 システム設定,入力・収録・表示チャンネルの指定,ユーザーファイル格納先の指定.

②受信データの表示

1時間前のオンライン波形データを画面に表示し,1分毎に更新する.

③収録状態監視ログモニター

 収録時刻チェック,波形データの欠落,テレメータ受信状況とPCの送信状況を監視し,ログ情報を表示する.ログファイルはプロセスの起動・終了及び正常な制御動作を記録する.

④ネットワーク機能

 TCP/Pを用いたネットワーク接続により,同一ネットワーク機器からのデータアクセスが可能である.

2.3. アナログ変換ユニット部(host名:jmajma)

2.3. 1D/A変換

 SSEWSからの1Hz,32chデータを±5Vのアナログデータに変換し,PCインターフェイスに接続されたD/A変換ボードから既設の打点モニターに出力する.分解能は12ビットで,上位ビット,下位ビット表示の選択が可能である.

2.3.2. データファイルの作成

 毎日定時にタスクが起動してファイルが作成される.起動するプログラムは徳本・他,(2001)のプログラムを本システム用に改良したもので,前日分の収録データから下記ファイルを作成する.

1秒値データ

1分値データ 1秒値データから1分平均値

5分値データ 1分値データから5分平均値

1時間データ 1分値データから1時間平均値

1日データ  1分値データから1日平均値

 収録ファイルに欠測や異常な時刻データのある時は自動で修正を行う.毎日定時にタスクが起動して,データ時刻チェックを行い,データの欠測には欠測値に置き換える処理を行う.また,自動で修正不可能なデータは手動で確認しながら修正を行う.

2.4. データ解析部(host名:hizumi)

2.4.1. 毎日の地殻変動データのプロット(ルーチン歪プロット)

 アナログ変換ユニット部で作成される毎日の各チャンネルファイルを,データ解析部のルーチン歪プロット用ファイルへ,自動的に追加転送される.

2.4.2. 修正ツール

 修正期間,修正チャンネル表示の選択,補間(線形,スプライン,キュービック,多項式)処理,欠測処理,シフト処理を行う.

2.4.3. 修正(保存)ファイル

 1981年以来の観測データが収録されているので、これに連続させるため前ファイル形態で追加収録する.データの修正及び追加するチャンネル数は20chを基に保存されているが,今後32chに増す必要がある.

 修正したデータはTable 1.のファイルに保存されている.本システムに使用している主なプログラムはMATLABで作成されている.データの流れをとおして,オペレータによる判断が必要なのは異常値の対応のみで,前システムに比較すると.自動処理によるところが多い.

2.4.3. その他

 データを物理量に変換する常数ファイルと履歴ファイルが用意されている.各チャンネルの常数をTable 2.に示した.予知連資料の作成,当室の地震観測報告に掲載する地殻変動データ作成等のプログラム改修を行った.

3.観測データ

 本システムの更新後,ディスク容量,演算速度が数十倍向上して,自動によるデータの収録や日データの作成処理が行えるようになつた.-マニュアル処理は異常値,欠測時のデータ処理の確認やデータのバックアップが主である. 前システムでの収録装置の障害や通信伝送の過負荷による通信エラー[徳本・他,(2001)]がたびたび発生したが,本更新によりデータ収録が順調に行われている.データは16ビットから24ビットになり,分解能が向上した.

 本装置による地殻変動データ処理に次の3つが自動処理されている.

①日データファイルの作成および収録装置(host:imaima,host:hisumi)への日データの転送.

②定時に分値,5分値,時間値,日値の平均値の作成.

③収録データの修正後,チャンネル毎の物理量変換処理.

 前システムは石英管伸縮計の南北・東西成分100mの記録(SS:長周期波形)以外は5分平均値データであったので,地殻変動の瞬時の時間的変化を調べるのにはサンプリング数の不足があった.本システムは1秒値の収録が可能となり,地震による振動が地殻変動測器に観測出来る様になった.

 2002年1月3日のVanuatu島付近に発生した地震(Ms7.3)における石英管伸縮計の各測定点,傾斜計(水管式,泡式)と超伝導重力計の記録波形例をFig.3に示した・1HzサンプリングでP,S,表面波の各位相が明瞭に観測されてた.

 Fig.4は2001年6月24日のペルー沿岸付近の地震(Ms8.4)における水管傾斜計の東西,南北両成分の観測記録である.

 Fig.5は2001年12月2日の岩手県南部の地震(Mj6.4)における地殻変動と水位計の変化を示した.図中下段の水位計は地震による振動を水深変化として観測したものである.Fig.6は2001年各月8日~9月10日の期間における1分平均値の地殻変動の記録例を示した.これらの各観測測器は地殻潮汐を観測するとともに,温度,気圧等の日変化をも記録している.

4.おわりに

 システムの更新によりディスク容量,データ処理速度等のハード面の性能が格段と向上し,データの取得,収録が長期的に安定した状態で運用できるようになった.また,観測データは収録容量の増大によりサンプリング数を増やす事ができ,短時間における微小な地殻変動の解析も可能となった.準リアルタイムで伝送データが画面にモニターされ,異常データの監視が可能になった.ソフト関係ではデータの収録,解析処理が大幅に自動化された.

 今回の更新に際して,予算の要求・仕様書の作成等にあたっては地震津波監視課の神宮博調査官(現火山課)と阿部正雄技術専門官のご協力によるところが大きく,ここに記して謝意を表します.

参考文献

三上直也・細野耕司,1988,歪地震計データ処理装置の更新,気象庁地震観測所技術報告,9,73-86.

徳本哲男・涌井仙一郎・西前裕司・古館友通,2001,地殻変動観測データの収録システムの構築,気象庁精密地震観測室技術報告,18,117-123.

*現地磁気観測所

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