第1部 気象業務の現状と今後
1章 国民の安全・安心を支える気象情報
1節 気象の監視・予測
(1)気象の警報、予報などの発表
ア.気象等の特別警報・警報・注意報などの防災気象情報
気象庁は、大雨や暴風などによって発生する災害の防止・軽減のため、気象等の特別警報・警報・注意報(以下「特別警報・警報・注意報」)や気象情報などの防災気象情報を発表しています。さらに、常に市町村、都道府県、国の機関、報道機関等の防災関係機関との間で意見交換を行い、情報の内容や発表タイミングの改善を進め、効果的な防災活動の支援を行っています。
○防災気象情報の種類
気象庁は、防災関係機関の活動や住民の安全確保行動の判断を支援するため、発生のおそれがある気象災害の重大さや可能性に応じて特別警報・警報・注意報を発表しています。また、災害に結びつくような激しい現象が予想される数日前から気象情報を発表し、現象の経過、予想、防災上の留意点等を解説します。このように防災気象情報は危険度の高まりに応じて段階的に発表されます。特別警報・警報・注意報及び気象情報には、以下のようなものがあります。
○特別警報・警報・注意報
・特別警報・警報・注意報の種類
現在、気象等に関する特別警報は6種類、警報は7種類、注意報は16種類あります。

・特別警報・警報・注意報の発表区域と発表基準
特別警報・警報・注意報は、市町村単位で発表しており、発表基準は災害発生に密接に結びついた指標(風速、潮位や後述の雨量指数など)を用いて設定しています。警報・注意報の基準は、市町村ごとに過去の災害を網羅的に調査した上で、例えば「風速がこの値以上に到達すると命に危険が及ぶような重大な災害が発生するおそれがある」という値を暴風警報の基準に設定するなど、重大な災害の発生するおそれのある値を警報の基準に、災害の発生するおそれのある値を注意報の基準に設定しています。また、特別警報の基準は、数十年に一度という極めて希で異常な現象を対象として設定しています。そして、特別警報、警報、注意報は、基準に到達する現象(特別警報級、警報級、注意報級の現象)が予想されるときに発表しています。

なお、強い地震が発生したことにより地盤が脆弱となっている可能性の高い地域や、火山噴火により火山灰が堆積した地域等では、降雨に伴う災害が通常よりも起きやすくなりますので、通常よりも警戒を高めるため、都道府県などと協議の上で、大雨警報などの基準を暫定的な値に引き下げて運用することがあります。近年の例では、平成28年(2016年)熊本地震の発生により、一部の市町村で大雨警報・注意報及び洪水警報・注意報の基準を通常よりも引き下げて運用しています。
・特別警報・警報・注意報及び警報級の可能性の発表
警報は、重大な災害が発生するような警報級の現象が概ね3~6時間先に予想されるときに発表することとしています。また、注意報は、注意報級の現象が概ね3~6時間先に予想されるときに発表するほか、警報級の現象が概ね6時間以上先に予想されているときには、警報の発表に先立って、警報に切り替える可能性が高い旨に言及した注意報を発表することとしています。例えば、翌日明け方に警報級の現象が予想される場合には、夕方の時点で「明け方までに○○警報に切り替える可能性が高い」のように発表しています。なお、こうした猶予時間(リードタイム)は、気象警報・注意報が防災関係機関や住民に伝わり安全確保行動がとられるまでにかかる時間を考慮して設けていますが、現象の予想が難しい場合には、リードタイムを確保できない場合もあります。
特別警報・警報・注意報は、特別警報級、警報級、注意報級の現象が予想される時間帯をそれぞれ紫、赤、黄色で表示するなど、危険度とその切迫度が一目で分かる色分け表示を行い、雨量、風速、潮位などの予想値も時間帯ごとに明示します(平成29年出水期より)。
また、警報級の現象が5日先までに予想されているときには、その可能性を「警報級の可能性」として[高]、[中]の2段階の確度を付して発表します(平成29年出水期より)。警報級の現象は、ひとたび発生すると命に危険が及ぶなど社会的影響が大きいため、可能性が高いことを表す[高]だけでなく、可能性が決して高くはないが一定程度認められることを表す[中]も発表しています。なお、[高]や[中]が発表されていなくても、天候の急激な変化に伴って警報発表となる場合もありますので、いつ警報発表となっても対応できるように、警報発表時の対応は普段から考えておくことが重要です。
○土砂災害に関する防災気象情報
大雨によって土砂災害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報、大雨警報(土砂災害)、土砂災害警戒情報等を発表しています。このうち、土砂災害警戒情報は、大雨警報(土砂災害)が発表されている状況で土砂災害発生の危険度がさらに高まったときに、市町村長の避難勧告や住民の自主避難の判断を支援するよう、対象となる市町村を特定して厳重な警戒を呼びかける防災情報で、都道府県と気象庁が共同で発表しています。さらに、大雨警報(土砂災害)等が発表されたときに実際にどこで危険度が高まっているかを面的に把握できるように、5km四方の領域ごとに危険度を5段階で表示した「土砂災害警戒判定メッシュ情報」を10分毎に発表しています。


大雨に伴って発生する土砂災害には、現在降っている雨だけでなく、これまでに降った雨による土壌中の水分量が深く関係しており、大雨警報(土砂災害)や土砂災害警戒情報等を発表する判断基準には、降った雨が土壌中に浸み込んで溜まっている量を指数化した「土壌雨量指数」を用いています。特に、土砂災害警戒情報の基準は、過去の土砂災害を網羅的に調査した上で「この基準を超えると過去の土砂災害発生時に匹敵する極めて危険な状況となり、この段階では命が奪われるような土砂災害がすでに発生していてもおかしくない」という基準を設定しており、この基準に到達するまでに安全な場所への避難行動を完了する必要があります。そこで、土砂災害警戒情報・大雨警報(土砂災害)・大雨注意報は、情報が発表され防災関係機関や住民に伝わり避難行動がとられるまでにかかる時間を確保するよう、2時間先までの土壌雨量指数等の予想を用いて発表の判断をしています。また、大雨警報(土砂災害)は土砂災害警戒情報よりも1時間程度前に、大雨注意報は大雨警報(土砂災害)のさらに1時間程度前に発表できるような基準を設定しています。

土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。崖や渓流の付近など、土砂災害によって命の危険が及ぶおそれがあると認められる場所は、都道府県によって土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域等(以下「土砂災害警戒区域等」)に指定されています。
これらの区域等にお住まいの方は、自治体から発令される避難情報に留意するとともに、大雨警報(土砂災害)を参考に早めの自主避難を心がけてください。さらに、土砂災害警戒判定メッシュ情報において「土砂災害警戒情報の基準に到達すると予想」される薄い紫色が出現した場合、土砂災害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況となっていて、まもなく土砂災害警戒情報が発表されます。土砂災害警戒区域等にお住まいの方は速やかに避難を開始し、「土砂災害警戒情報の基準にすでに到達」したことを示す濃い紫色が出現するまでに土砂災害警戒区域等の外の少しでも安全な場所への避難行動を完了しておくことが大変重要です。

大雨による土砂災害について、危険度の高まりに応じて段階的に発表される防災気象情報、市町村の対応例、住民の方にとっていただきたい行動等の概要を図のようにまとめました。

コラム
■大雨警報(浸水害)の改善効果 ~浸水害発生に密接に結びついた表面雨量指数の導入~
気象庁では、大雨警報(浸水害)・大雨注意報の改善に向けて、平成29年度出水期から、これまで発表基準に用いてきた雨量そのものよりも浸水害発生に密接に結びついた表面雨量指数を発表基準に用いることを計画しています(トピックスⅠ(3)参照)。平成3年から24年にかけて発生した浸水害に対して、雨量基準と表面雨量指数基準の災害捕捉状況を比較検証したところ、表面雨量指数基準は、これまでの雨量基準に比べて、より多くの浸水害を捕捉できるようになり、また、警報・注意報が発表されたときに浸水害が発生しないという状況(空振り)を大幅に減らすことができることが分かりました。

実際の事例で大雨警報(浸水害)の改善効果を見てみます。平成26年9月10日に、東京都23区を中心に雷を伴った猛烈な雨が降り、千代田区大手町では1時間に71.5ミリの非常に激しい雨を観測しました。この大雨で、23区を中心に浸水害が発生し、特に江戸川区では数多くの浸水害が発生しました。当日の雨量予想(23区:90ミリ、多摩北部・南部:60ミリ、多摩西部:40ミリ)に基づき、表面雨量指数基準による大雨警報(浸水害)・大雨注意報の発表シミュレーションを実施すると、これまでの雨量基準では警報発表となっていた多摩北部・南部では警報発表が回避され、23区に絞り込んで警報を発表できるという結果が得られます。さらに「大雨警報(浸水害)の危険度分布」では、実際に浸水害が発生した領域を取りこぼすことなく、危険度が高まっている領域を絞り込んで表示できることが分かります。
このように、表面雨量指数を導入することで、より的確に大雨警報(浸水害)・大雨注意報が発表されるようになります。

○洪水害に関する防災気象情報
河川の上流域における降雨や融雪によって下流で洪水害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて洪水警報・注意報を発表しています。また、防災上重要な河川については、増水や氾濫などに対する水防活動や住民の自主避難の判断を支援するよう「指定河川洪水予報」を発表しています。
・指定河川洪水予報
指定河川洪水予報は、あらかじめ指定した河川(洪水予報河川)について、区間を決めて水位または流量を示して行う洪水の予報で、河川管理者(国土交通省水管理・国土保全局、都道府県)と気象庁が共同で発表しています。気象庁は気象(降雨、融雪など)の予測、国土交通省や都道府県は水文状況(河川の水位または流量)の予測を担当して、緊密な連携のもとで洪水予報を行っています。洪水予報の標題は、洪水の危険度の高い順からそれぞれ「氾濫発生情報」「氾濫危険情報」「氾濫警戒情報」「氾濫注意情報」を河川名の後につなげたものです。また、洪水の危険度と水位を対応させて数値化した水位危険度レベルを情報に記載するなど、分かりやすい情報を目指しています。

想定される河川の氾濫が発生したときに氾濫した水によって押し流されてしまう家屋や最上階まで浸水してしまう家屋など、洪水予報河川の氾濫で命に危険が及ぶ場所にお住まいの方は、自治体から発令される避難情報に留意するとともに、指定河川洪水予報を参考に早めの自主避難を心がけてください。遅くとも氾濫危険情報が発表された時点で建物からの立退き避難を開始し、浸水想定区域の外の安全な場所に避難することが大変重要です。
・洪水警報・注意報と洪水警報の危険度分布
洪水警報・注意報を発表する判断基準には、河川毎に上流域の降雨が地表面や地中を通って時間をかけて河川に流れ出し、さらに河川に沿って流れ下る量を指数化した「流域雨量指数」を用いており、例えば、洪水警報の基準は、過去の洪水害を網羅的に調査した上で「A川の流域雨量指数がこの値を超えると命に危険が及ぶような重大な洪水害が発生するおそれがある」という値を設定しています。洪水警報・注意報が発表されたときに、指定河川洪水予報の発表対象ではない水位周知河川やその他河川についても、どの河川のどの場所で洪水警報・注意報の基準に到達したかを面的に把握できるよう、洪水害発生の危険度の高まりを5段階に色分け表示した「洪水警報の危険度分布」を10分毎に発表します(平成29年出水期より)。山間部の流れの速い河川で水流によって川岸が削られて押し流されてしまう沿川の家屋、河川の氾濫が発生したときに最上階まで浸水してしまう家屋など、想定される中小河川の氾濫で命に危険が及ぶ家屋にお住まいの方は、自治体の避難情報や河川の水位情報に留意するとともに、実際に河川の水位が上昇するより前の早い段階から「洪水警報の危険度分布」を参考に早めの自主避難を心がけてください。「洪水警報の危険度分布」は、自分がいる場所に命の危険を及ぼす可能性のある河川の危険度を、上流地点の危険度も含めて確認してください。薄い紫色の危険度が出現した場合には、重大な洪水害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況です。速やかに避難を開始し、濃い紫色の危険度が出現するまでに安全な場所への避難行動を完了しておくことが大変重要です。

○高潮災害に関する防災気象情報
・高潮警報・暴風警報等
台風や低気圧等の接近に伴う異常な海面の上昇により高潮災害が発生するおそれがあると予想されるときには高潮警報等(特別警報・警報・注意報)を発表しています。高潮警報等では、市町村長による避難勧告の発令区域の判断に資するよう、予想される最高潮位の標高(高潮の高さ)を明示しています。

高潮災害で命に危険が及ぶ範囲は高潮の高さによって大きく異なります。自治体のハザードマップなどで潮位(標高)に応じた浸水区域などをあらかじめご確認ください。高潮発生時に堤防を越えた波浪が直撃する家屋や氾濫した水に押し流されてしまう家屋などでは命に危険が及びます。そうした家屋にお住まいの方は、台風や急発達する低気圧の接近が予想されているときには、自治体から発令される避難情報に留意するとともに、高潮注意報が発表されたら予想最高潮位(高潮の高さ)を確認し、早めの自主避難を検討してください。避難する場合は予想最高潮位に応じて想定される浸水区域の外の安全な場所に避難することが大変重要です。

また、高潮災害が起こるような台風等の接近時には、潮位の上昇よりも先に暴風が吹き始め、屋外への立退き避難が困難となりますので、高潮警報を待つことなく、暴風警報が発表された時点で高潮災害から命を守るために必要な避難行動を開始することが重要です。なお、暴風警報は、暴風の吹き始める概ね3~6時間前に、暴風の吹き始める時間帯を明示して発表しています。

○台風情報
台風がいつ頃どこに接近するかをお知らせするのが「台風情報」です。この情報は、様々な防災対策に利用できるよう、台風が我が国に近づくにつれてきめ細かく頻繁に発表します。気象庁は台風を常時監視しており、通常は3時間ごとに台風の中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さの実況と最大3日先までの予報を、観測時刻の約50分後に発表します。予報では、台風の中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、台風の中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(平均風速が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。更に、3日先以降も台風であると予想される場合には5日先までの進路予報を6時間ごとに行い、観測時刻から約90分後に発表します。
台風の勢力を示す目安として、風速をもとにして台風の「大きさ」と「強さ」を表現します。「大きさ」は平均風速が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)を、「強さ」は最大風速を基準にして表現を使い分けています。
台風が我が国に近づき、被害のおそれが出てきた場合には、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。また、72時間先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。



○(全般・地方・府県)気象情報
低気圧や前線などの災害に結びつくような激しい気象現象について、現象の経過、予想、防災上の留意点などを「気象情報」(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点を分かりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候の状況についても「気象情報」(「高温に関する気象情報」など)として発表します。


○記録的短時間大雨情報
大雨警報の発表中に、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には「記録的短時間大雨情報」を発表します。この情報が発表された地域では土砂災害や浸水害の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを意味しています。地元自治体の発令する避難に関する情報に留意し、速やかに安全確保行動をとってください。

○雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、高解像度降水ナウキャスト)
「解析雨量」は、雨量分布を把握できるように、気象レーダー観測で得られた雨の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された実際の雨量で補正し、1時間雨量の分布を1km四方の細かさで解析し、30分間隔で発表します。
「降水短時間予報」は、目先数時間に予想される雨量分布を把握できるように解析雨量をもとに、雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱や数値予報の予測雨量などを考慮して、6時間先までの各1時間雨量を1km四方の細かさで予測し、30分間隔で発表します。

さらに、極めて短時間に変化する雨にも対応するため、より即時的にきめ細かな予測情報を提供するのが「高解像度降水ナウキャスト」です。5分ごとの降水量と降水の強さの分布を250m四方の細かさ(30分先まで。35分から60分先までは1km四方単位)で予測するもので、情報は5分間隔で更新されます。また、30分後までの「強い降水域」や、竜巻・落雷の危険が高まっている「竜巻発生確度2又は雷活動度4」等の領域を1枚の画像に重ねて表示することができます。さらに、スマートフォンからアクセスした場合は、自動的にスマートフォン用ページが表示されます。高解像度降水ナウキャストの解析・予測には全国20カ所の気象ドップラーレーダーのデータに加え、気象庁・国土交通省・地方自治体が保有する全国約10,000カ所の雨量計の観測データ、ウィンドプロファイラやラジオゾンデの高層観測データ、国土交通省のXバンドMPレーダのデータも活用しています。また、最新の技術を用いて降水域の内部を立体的に解析することにより精度向上を図っています。
○積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報
・竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報
積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保していただくための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」及び「竜巻注意情報」を発表しています。「竜巻発生確度ナウキャスト」は、気象ドップラーレーダーの観測などを基に、竜巻などの激しい突風が発生する可能性の程度を10km格子単位で解析し、その1時間後(10~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。
「竜巻発生確度ナウキャスト」を利用することにより、竜巻などが発生する可能性の高い地域や刻々と変わる状況を詳細に把握することができます。「竜巻注意情報」は、竜巻発生確度ナウキャストで発生確度2が現れた地域に発表しているほか、目撃情報が得られて竜巻の継続や新たな竜巻の発生するおそれが高い状態が続くと判断した場合にも発表しています。竜巻注意情報が発表されたときには、情報の発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。
・雷ナウキャスト
落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を発表しています。「雷ナウキャスト」は、雷監視システムによる雷放電の検知及びレーダー観測などを基に、雷の激しさや雷の可能性を1km格子単位で解析し、その1時間後(10分~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。雷の激しさや雷の発生可能性は、活動度1~4で表します。このうち活動度2~4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。屋外にいる人は建物の中に移動するなど安全の確保に努めてください。
○防災気象情報の伝達と自治体支援の取組
気象庁が発表する特別警報・警報・注意報や気象情報などの防災気象情報は、テレビ・ラジオ等の報道機関や気象庁ホームページ等を通じて住民に提供しているほか、都道府県や消防庁を通じて自治体等の防災関係機関に伝達しています。気象災害の被害軽減のためには、防災気象情報が自治体などに迅速かつ確実に伝わることはもとより、情報の受け手がその意味を正しく理解して避難勧告等の発令を判断するなど、適切な防災対応につなげることが非常に重要です。各地の気象台では、自治体が防災に関する計画や避難勧告等の発令基準を定める際に、防災気象情報の活用方法について個別にアドバイスを行ったり、自治体等の防災担当者に対する説明会や研修などで情報の活用について積極的に説明を行ったりしています。また、台風の接近など災害の発生が危惧される場合には、自治体等の防災関係機関に対して気象状況の事前説明を行い、電話等で気象状況や今後の見通しを積極的に伝え、事態の推移によっては自治体の災害対策本部に気象台から直接出向いて説明するなど、気象台が持つ危機感を常に共有することで適切な防災対応につながるよう自治体を支援しています。
(2)天気予報、週間天気予報、季節予報
天気は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいかとか、週末に予定している旅行はどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報が役に立ちます。
ア.天気予報
天気予報には、「府県天気予報」、「地方天気分布予報」、「地域時系列予報」の三つの種類があります。「府県天気予報」は、今日から明後日までの一日ごとの天気をおおまかに把握するのに適しています。 「地方天気分布予報」は、天気などの面的な分布が一目でわかるので、例えば府県天気予報で「曇り時々雨」となっていた場合、雨がどの地域でいつごろ降るのかといったことを把握するのに適しています。「地域時系列予報」は、ある地域の天気や気温、風の時間ごとの移り変わりを知るのに便利な予報です。また、平成29年度からは、翌日までの警報級の現象の発生のおそれを積極的に伝えるため、府県天気予報の発表に合わせて、警報級の現象になる可能性を[高][中]といった可能性の度合いを付して提供します(56ページ参照)。


イ.週間天気予報
週間天気予報は、発表日の翌日から1週間先までの毎日の天気、最高・最低気温、降水確率を、1日2回、11時と17時に発表しています。週間天気予報では、今日や明日の予報に比べてさらに先を予報するので予報を適中させることが難しくなります。このため天気については信頼度を、気温については予測範囲をあわせて示しています。信頼度は、3日目以降の降水の有無について、「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表し、予報の確度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。気温の予測範囲は、「24℃~27℃」のように予想される気温の範囲を示しており、実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。これらの情報によって、例えば同じ晴れ時々曇りという予報でも、どれくらいの確度の予報かを知ることができます。また、平成29年度からは、明後日から5日先までの警報級の現象の発生のおそれを積極的に伝えるため、週間天気予報の発表に合わせて、警報級の現象になる可能性を[高][中]といった可能性の度合いを付して提供します(56ページ参照)。
ウ.季節予報
季節予報には、予報期間別に、2週間程度先までを予報する異常天候早期警戒情報、1か月先までを予報する1か月予報、3か月先までを予報する3か月予報、6か月先までを予報する暖候期予報・寒候期予報があり、それぞれの期間について、平均的な気温や降水量などを、予報区単位で予報しています。平均的な気温や降水量などは、3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。「異常天候早期警戒情報」については、2週間程度先までの7日間平均気温や7日間降雪量が平年から大きく隔たる可能性が高いと予測した場合に発表します。それぞれの予報の内容と発表日時は表のとおりです。また、地方季節予報で用いる予報区分は図のとおりです。

(3)船舶の安全などのための情報
船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められます。
このため、日本近海や外洋を航行する船舶向けに、海上における風向・風速、波の高さ、海面水温、海流などの予報や強風・濃霧・着氷などの警報を、通信衛星(インマルサット)による衛星放送、ナブテックス無線放送、NHKラジオ(漁業気象通報)などにより提供しています。さらに、平成27年(2015年)3月から、気象現象の空間的な分布や推移を分かりやすく示した、図形式の地方海上分布予報を提供しています。

ア.日本近海に関する情報
日本の沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12に分けた海域ごとに、低気圧などに関する情報とともに、天気や風向・風速、波の高さなどの予報、強風・濃霧・着氷などの警報を発表しています。これらの予報や警報などは、地方海上予報や地方海上警報として、ナブテックス無線放送(英文・和文放送)によって日本近海を航行する船舶に提供しています。ナブテックス無線放送では、これらの予報や警報に加えて、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。
主に日本近海で操業する漁船向けには、台風、高・低気圧、前線などの実況と予想、陸上や海上における気象の実況情報を、漁業気象通報としてNHKラジオを通じて提供しています。また、天気概況や気象の実況情報、海上予報・警報などを、漁業無線気象通報として漁業用海岸局を通じて提供しています。
また、地方海上予報・警報の内容の詳細なイメージを補足する情報として24時間先までの風、波、視程(霧)、着氷、天気の分布予想を図形式にした地方海上分布予報を気象庁ホームページに掲載しています。



さらに、海上の警報の内容も記述した実況天気図や、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想も記述した予想天気図(海上悪天24時間予想図、同48時間予想図)、台風(120時間先までの進路予報及び72時間先までの強度予報)、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況や予想などの図情報を、短波放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)により提供しています。
イ.外洋に関する情報
「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、気象庁の責任分担海域である北西太平洋(概ね赤道から北緯60度、東経100度から180度に囲まれる海域)を対象に、緯度・経度で地域を明示して、低気圧や台風に関する情報とともに海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。
(4)その他の情報
ア.光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供
気象庁は、晴れて日射が強く、風が弱いなど、光化学スモッグなどの大気汚染に関連する気象状況を都道府県に通報するとともに、光化学スモッグが発生しやすい気象状況が予想される場合には「スモッグ気象情報」や翌日を対象とした「全般スモッグ気象情報」を広く一般に発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。
イ.熱中症についての注意喚起
一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、高温注意情報、異常天候早期警戒情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。
平成27年度からは、高温注意情報(概ね35℃以上※の高温が予想される場合)の発表を5時頃から17時頃の間に随時発表するように、又、高温注意情報を発表した場合だけでなく概ね真夏日(最高気温30℃以上)が予想される場合にも日々の天気概況で注意を呼びかけるよう改善を図りました。
地方別、都道府県別の高温注意情報の発表状況、内容、気温予想グラフは気象庁ホームページで確認できます(http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html)。また、テレビ等の報道機関や関係機関を通じて伝えられますので、暑さを避け、水分をこまめに補給するなど、特に健康管理に十分気をつけてください。
※ 一部の地域では35℃以外を用いています。
2節 気象の観測・監視と情報の発表
(1)地上気象観測
気象台や測候所、特別地域気象観測所では気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。また、集中豪雨等の局地的な気象の把握を目的として、これらの気象官署を含めた全国各地の約1,300か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)により、降水量などを観測しています。このうち、約840か所では降水量に加えて、気温、風向・風速、日照時間を、また、豪雪地帯などの約320か所では積雪の深さを観測しています。

(2)レーダー気象観測
全国20か所に設置した気象レーダーにより降水の観測を行っています。気象レーダーは、パラボラアンテナから電波を発射し、雨などによって反射された電波を受信することにより、どの位置にどの程度の強さの降水があるかを把握することができます。各レーダーの観測結果を組み合わせることにより、日本の陸域とその近海における降水の分布と強さを5分ごとに観測しています。また、電波のドップラー効果を利用して、風で流される雨粒や雪の動きを観測できる機能も備えており、集中豪雨や竜巻などの突風をもたらす積乱雲内部の詳細な風の分布の把握を行っています。観測成果は、気象庁ホームページ等で提供される他、天気予報や大雨警報などの気象情報の発表に利用しています。


(3)高層気象観測
ア.ラジオゾンデ観測
天気に影響する低気圧や高気圧などの予測を精度よく行うためには、これらの動きに大きく関連している上空の大気の観測が必要になります。このため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30キロメートル上空までの気圧(高度)、気温、湿度及び風を観測しています。
ラジオゾンデの観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理などにも利用されています。また、近年は、地球温暖化をはじめとした気候問題への関心が高まり、対流圏や成層圏の気温変化の監視など気候分野においても重要な役割を果たしています。



イ.ウィンドプロファイラ観測
ウィンドプロファイラは地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱されて戻ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を300メートルの高度間隔で10分毎に観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、最大12キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。全国33か所に設置したウィンドプロファイラの観測データは、実況監視や数値予報に利用され、大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。



(4)静止気象衛星観測
気象庁は、昭和52年(1977年)の初号機の打上げ以来40 年にわたって、静止気象衛星「ひまわり」による観測を続けてきました。平成27年(2015年)7月7日からは「ひまわり8号」が観測を行っています。さらに、平成28年(2016年)11月2日には後継機である「ひまわり9号」を打ち上げました。平成34年(2022年)からは、「ひまわり8号」と役割を交代して、「ひまわり9号」が観測を行う予定です。「ひまわり8号・9号」の二機体制により、平成41年までの長期にわたって安定的に観測を継続します。
静止気象衛星の最大の利点は、同じ地域を常に観測できるという点です。東経140度付近の赤道上空約35,800キロメートルの静止軌道上にあることで、地球の自転周期に合わせて周回することとなり、日本を含む東アジア・西太平洋地域の広い範囲を、24時間常時観測することができます。特に、観測地点が少ない海上の台風を監視するために不可欠な観測手段となっています。



同じ地域を常に観測できる「ひまわり」の利点を活かして、連続した衛星画像から雲の移動量を解析することにより、上空の風(風向・風速)を算出できます。この風の分布は、気象の観測所が存在しない地域や海上においても算出可能なため、数値予報における重要なデータとなっています。「ひまわり8号」では、短い時間間隔で高い分解能の画像を撮影でき、さらに、画像の種類も増えたため、この観測データを活用することで、従来より高い頻度、高い密度、多様な高度、高い精度で上空の風を算出できるようになりました(下図)。
このほかにも、「ひまわり」の観測データは、上空の黄砂や火山灰の監視、海面水温の算出や流氷の監視などに幅広く利用されています。さらに、この観測データは、日本のみならずアジア・太平洋地域を中心とした世界各国でも利用されています。
また、「ひまわり」にはデータを中継する通信機能もあり、国内外の離島などに設置された観測装置の気象データや潮位(津波)データ、国内主要地点の震度データなどの収集に活用されています。

コラム
■「ひまわり」衛星データの活用 ~高分解能雲情報~
気象衛星センターでは、「ひまわり」が観測したデータを数値予報データなどと組み合わせて、各種気象情報作成の基となる「衛星プロダクト」として、世界中に配信しています。
平成27年(2015年)7月からは「ひまわり8号」で新たに追加された多数の波長帯(バンド)の高解像度な観測データを活用して、従来の「雲量格子点情報」を高度化した「高分解能雲情報」を提供しています。これは「ひまわり」が観測したデータを用いて、「雲の有無、ダストの有無、雪氷の有無、雲型、雲頂高度」を赤外画像の1画素分に相当する緯経度0.02度(赤道直下で2km)格子で推定したものです。従来よりも空間分解能が向上し、さらに、提供領域も拡大しました。この情報は国内の気象官署や民間気象事業者等に加えて海外の気象機関にも配信され、気象の実況監視や予報等に活用されています。

(5)潮位・波浪観測
気象庁では、高潮・副振動・異常潮位・高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を使用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。
一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮特別警報・高潮警報・高潮注意報、波浪特別警報・波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。

(6)地磁気観測
気象庁は、地球環境の変動を監視するために、茨城県石岡市柿岡に地磁気観測所をおき、女満別(北海道網走郡大空町)、鹿屋(鹿児島県鹿屋市)、父島(東京都小笠原村)の計4地点で定常的な地磁気の観測を行っています。柿岡では1913年以来、高い精度の地磁気観測を続けており、東アジア・西太平洋地域を代表する重要な観測所のひとつとなっています。観測成果は、太陽と地球を取り巻く環境の監視、航空機及び船舶の安全運航の確保、無線通信障害の警報、火山噴火予知等に利活用されています。

現在、方位磁針の指す向きは、東京付近で真北から約7度西にずれていますが、伊能忠敬が地図を作製した200年ほど前はほぼ真北を向いていました。このような長期的な変化は永年変化と呼ばれ、地球内部の対流に起因しています。地磁気の大きさの分布は一様ではなく、また、地磁気の強弱は地表に到達する宇宙線の増減につながるなど、地磁気観測は地球環境に与える影響監視のためのひとつの手段となっています。

地磁気は短時間の間にも常に変化しており、太陽表面の爆発に伴って地磁気が激しく変化する磁気嵐などは、電波通信や送電システムの障害、人工衛星の運用トラブルなど社会生活に影響を与えるため、磁気嵐や地磁気活動状況等の情報を公開し、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が行う「宇宙天気予報」の精度向上に貢献しています。

また、火山を構成する岩石は磁気を帯びています。山体内部の温度上昇や圧力増加等により、その磁気は変化する性質があります。この性質を利用し、草津白根山等の活動的火山で地磁気の観測を行って火山活動状況の変化を監視し、その観測成果を関係機関に提供しています。
3節 異常気象などの監視・予測
(1)異常気象の監視
気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節等)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。
気象庁では、世界中から収集した観測データ等をもとに、我が国や世界各地で発生する異常気象を監視して、極端な高温・低温や多雨・少雨などが観測された地域や気象災害について、週ごとや月ごと、季節ごとにとりまとめて発表しています。また、社会的に大きな影響をもたらす異常気象が発生した場合は、特徴と要因、見通しをまとめた情報を随時発表し、気象庁ホームページでも公表しています。 例えば、平成28年(2016年)は、東南アジアの少雨や中国長江流域の多雨に関する情報等を発表しました。

さらに、我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会(写真)を開催し、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。最近では、平成25年(2013年)夏の日本の極端な天候や平成26年(2014年)8月の不順な天候に関して異常気象分析検討会を開催し、分析結果を発表しています。

(2)エルニーニョ/ラニーニャ現象等の監視と予測
エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生します。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態も日本や世界の天候に影響を与えます。
気象庁では、エルニーニョ/ラニーニャ現象、西太平洋熱帯域とインド洋熱帯域における海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。



4節 気象庁の基盤情報システムとインターネットを通じた情報発信
気象庁では、国内外の関係機関から気象などの観測データを収集し、これを解析、予測することで、特別警報・警報・注意報などの防災気象情報を作成し、防災関係機関や報道機関を通して広く国民に伝達しています。観測データの収集や情報伝達、解析や予測には気象資料総合処理システム(COSMETS)を使用しています。気象資料総合処理システムは解析や予測を担うスーパーコンピュータシステムと通信機能を担う気象情報伝送処理システムの2つのシステムで構成されています。スーパーコンピュータシステムは、世界各地の観測データ、気象衛星(ひまわり)の観測データなどを使って気圧や気温など大気の状態を詳しく解析し、さらに解析結果から物理法則に基づくモデル計算により大気の今後の変化を予測します。気象情報伝送処理システムは、最新の地上・高層気象観測や気象レーダー観測のデータ、沿岸波浪計や潮位計、船舶などによる海洋観測のデータ、震度観測データなどのほか、都道府県などが行う雨量観測や震度観測などのデータを収集しています。また、世界の気象機関が協力して運用する全球通信システム(GTS)の通信中枢として関係国と観測データの交換を行っています。これらの観測データ、解析・予測の情報、地震・津波や火山に関する情報を、国内の気象官署や防災関係機関、外国の気象機関などに提供するとともに、民間気象業務支援センターを通じて民間の気象事業者や報道機関などに提供しています。各気象台との情報伝達経路となる国内の基盤通信網を2重化していることに加え、東日本と西日本にそれぞれ中枢を持つ気象情報伝送処理システムは相互バックアップ機能を有しており、大規模災害時にも安定して各種観測データの収集や予報、防災情報などの伝達を継続できるように信頼性の向上を図っています。

(1)WMO情報システム(WIS)
WMO情報システム(WIS:WMO Information System)は、気象に関するデータやプロダクトなどの情報を国際的に効率よく交換・提供するために、WMOが新たに構築した基盤情報網です。従来のGTSに各種気象情報を統合し、統一された情報カタログを整備することで検索やアクセスが容易になり、気象情報の有効活用が図られています。

WISは、中核となる全球情報システムセンター(GISC:Global Information System Centre)、各種気象情報を提供するデータ収集作成センター(DCPC:Data Collection or Production Centre)、各国気象局など(NC:National Centre)から構成されます。
世界中のデータやカタログの管理・交換を行うGISCは、気象庁を含め世界に15か所配置され、責任地域を分担してWMO各地区をカバーしています。気象庁は、このGISCと8つのDCPCの運用を、世界に先駆けて平成23(2011)年8月から開始しました。
気象庁は第Ⅱ地区のカンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスおよび第Ⅴ地区ながら台風などで連携の強いフィリピンをGISC東京の責任域国とし、WISに関する技術支援を積極的に行い、国際貢献と我が国の国際的プレゼンスの向上を図っています。

(2)気象庁ホームページ
気象庁ホームページでは、大雨、地震・津波、火山噴火等に関する防災情報を掲載しています。掲載している防災情報には、警報・注意報や予報等を文字や表で伝えるものに加え、降水の実況と短時間予報を好みの範囲で表示させることが出来る高解像度降水ナウキャストといった図情報も豊富にあります。また、これらの防災情報の解説や効果的な利用方法も合わせて掲載しています。台風が接近している時などは、気象庁ホームページへのアクセスが急増し、1日で5,000万ページビューを超えることもあります。

(3)防災情報提供センター
国土交通省は、省内の各部局等が保有する様々な防災情報を集約して、インターネットを通じて国民の皆様へ一つのホームページから提供するため、「防災情報提供センター」というウェブサイト(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)を運用しており、その運営は気象庁が担当しています。

このウェブサイトからは、国土交通省の各部局等や都道府県などの雨量情報を一覧できる「リアルタイム雨量」や国土交通省内の各レーダーそれぞれの長所を活かして統合した「リアルタイムレーダー」をはじめ、河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の災害・防災情報を容易に入手することができます。
また、携帯端末向けのホームページ(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html)では、屋外などパソコンが使えないような場所でも、気象警報、竜巻や降水のナウキャスト情報などの気象情報のほか、津波警報や潮位情報等の防災情報を入手できるようにしています。
2章 地震・津波と火山に関する情報
1節 地震・津波に関する情報の発表・伝達及び利活用
地震による災害には、主に地震の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、その発生時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震及び津波の情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。

(1)地震に関する情報
気象庁は、全国約300か所に設置した地震計や国立研究開発法人防災科学技術研究所や大学の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さ(震度)を測る震度計を全国約670か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4,400か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に地震発生時には次の情報を発表しています。


ア.緊急地震速報(地震動特別警報・地震動警報・地震動予報)
緊急地震速報は、地震の発生直後に震源に近い地震計で捉えた観測データを解析して、震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる情報です。この情報により、強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減が図られています。気象庁は、最大震度5弱以上の揺れを予想した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、地震動特別警報(震度6弱以上の揺れが予想される場合)・地震動警報に相当する緊急地震速報(警報)を発表し、強い揺れに警戒する必要があることをテレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、マグニチュードが3.5以上又は最大予測震度が3以上である場合等には、緊急地震速報(予報)を発表します。民間の予報業務許可事業者は、緊急地震速報(予報)の震源やマグニチュードを用いて、特定の地点の主要動の到達時刻や震度を予報し、ユーザーに対して専用端末等を通じ、音声や文字等で知らせたり、機械を制御する信号を発したりする個別のサービスを行っています。
イ.観測した結果を整理した情報
気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後に震度3以上を観測した地域をお知らせする「震度速報」のほか、震源の位置や震度3以上を観測した市町村名などをお知らせする「震源・震度に関する情報」など、観測データを基に順次詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道されるだけでなく、防災関係機関の初動対応や災害応急対策の基準としての役割があります。そのため、地面の揺れを的確に観測できるよう検定に合格した震度計を使用し、設置方法等にも基準を設けています。また、地方公共団体の震度計についても同様の基準を満たすよう、地方気象台が技術的なアドバイスを行っています。さらに、高層ビル等における地震後の防災対応等に資するため、観測された長周期地震動階級などをお知らせする「長周期地震動に関する観測情報」を、気象庁ホームページで平成25年3月から試行的に提供しています。
(2)津波に関する情報
気象庁は、地震により発生した津波が日本沿岸に到達するおそれがある場合には津波警報等を発表するとともに、津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを津波情報として発表します。また、気象庁や関係機関が沿岸及び沖合に設置した約380か所の観測施設のデータを活用して津波を監視し、津波が観測されるとその観測結果を津波情報として発表します。沖合の津波観測施設としては、ケーブル式海底津波計やGPS波浪計を活用しています。

① 津波警報・注意報、津波予報、津波情報
海域で規模の大きな地震が発生し、地震と同時に発生する地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすると、津波が発生します。気象庁は、陸域へ浸水するなど重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波警報」(高さ1~3メートル)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は特別警報に位置付けられている「大津波警報」(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害の起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波注意報」(高さ0.2~1メートル)を全国66に分けた津波予報区単位で発表します。なお、地震発生後、津波が予想されるものの災害が起こるおそれがない0.2メートル未満の高さの場合には、「津波予報」(若干の海面変動)を発表します。
ただし、マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、地震発生から数分程度では地震の規模を精度よく求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報の第1報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。このような表現を用いた場合でも、地震発生から15分ほどで精度よく地震の規模を把握し、それに基づき津波警報を更新し、予想される津波の高さを数値で発表しなおします。

津波警報等の発表後、沖合で津波を観測した場合には、間もなく沿岸に津波が到達する可能性が高いことから、その観測点における第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値に加え、その観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さの予想を津波情報(沖合の津波観測に関する情報)で発表します。
また、沿岸で津波を観測した場合には、観測した事実を速やかに知らせるため、第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値を津波情報(津波観測に関する情報)で発表します。
(3)地震・津波に関する地方公共団体との連携・協力
ア.地震・津波災害発生時の地方公共団体への協力
日本は、世界でも有数の地震大国であり、日本とその周辺で発生する地震は年間約10万回、震度1以上の地震は、約2,000回発生しています。そのうち、地方公共団体が防災対応をとる目安となる震度4以上の地震は、年間およそ30~60回ほど発生しています。
地震や津波の発生により、国内で被害が予想される場合や被害が発生した場合に、自治体や防災機関が災害応急対策や災害復旧・復興を迅速かつ的確に検討・実施するためには、地震・津波の発生状況や今後の見通し等を迅速かつ的確に把握する必要があります。
このことから気象庁は、自治体や防災機関が行う防災対応を支援するため、地震発生後、速やかに地震や津波の情報を発表するほか、最大震度が4以上の地震が発生した場合あるいは津波注意報以上を発表した場合には、地震や津波警報等の概要、震度分布図や推計震度分布図等、全体の把握に役立つ図表を取りまとめて、地震解説資料(速報版)を地震発生から30分程度を目処に提供しています。
さらに最大震度が5弱以上あるいは津波注意報以上を発表した場合等では、自治体の災害対策本部等で災害応急対応やその後の災害復旧・復興対策を検討する可能性が高まることから、地震や津波のより詳しい状況等を取りまとめ、地震解説資料(詳細版)または報道発表資料を地震発生から1~2時間を目処に提供しています。また、状況によっては、自治体へ直接電話をかけたり災害対策本部等へ気象庁職員を派遣したりし、地域特性や今後の見通し、警戒すべき事項等の詳しい解説を行っています。
イ.平時における地域防災力の向上の取り組み
○防災知識の普及啓発
地震や津波は突発的に発生することから、被害の防止・軽減を図るためには、まず住民自身が自分の身を守り、さらに地域住民で助け合うことが大変重要となります。気象庁では、地方公共団体等と連携した住民に対する防災知識の普及啓発に積極的に取り組んでおり、これらを通じた自助・共助の高まりによって地域防災力の向上を図っています。平成28年度には、豊島区や日本赤十字社、内閣府、文部科学省との共催により、大地震への備えを呼びかける体験型の防災イベントを実施しました(第1部6章コラム参照)。このように地震・津波災害への理解を深め平時からの備えについて考える防災講演会や防災イベントは、全国の気象台でも地元の防災関係機関と連携して実施しています。また、緊急地震速報の訓練を全国的な訓練として実施することや、地方公共団体が実施する防災訓練がさらに実践的な訓練内容となるよう協力すること等を通じて、地方公共団体と連携した地域防災力の向上に積極的に取り組んでいます。

○陸域の浅い地震への備え
「平成28年(2016年)熊本地震」は、「陸域の浅い場所」で発生した地震で、甚大な被害が発生しました。このことを踏まえて、住民一人ひとりが「陸域の浅い地震」というものをよく理解して、事前の備えを進めていただけるよう、文部科学省と気象庁が共同で普及啓発資料「活断層の地震に備える-陸域の浅い地震-」を作成しました。この資料は、全国版と地方版(全国を8地域に分割)の2種類があり、陸域の浅い地震が起こる仕組みや主要活断層の評価、過去の被害などを説明し、地方版では更にその地域にある活断層や予想される揺れなど、地域の特徴を詳しく解説しています。
文部科学省と気象庁では、この資料をもとに「陸域の浅い地震」に対する事前の備えが進むよう、平成29年2月に東京都豊島区で防災イベントを実施して、住民の方々に活用を呼びかけました。また、今後は自治体の防災担当者を対象とした勉強会などを実施して、自治体から地域住民への普及啓発にも本資料を活用していただけるよう働きかけを行います。更に、学校関係者にも広くお知らせして、学校での防災教育にも活用していただきたいと考えています。
コラム
■「陸域の浅い地震」
「平成28年(2016年)熊本地震」は、陸域の浅い場所で発生し、熊本県から大分県にかけての広範囲で甚大な被害をもたらしました。
(1)陸域の浅い地震とは
日本列島周辺では、複数のプレートがぶつかりあっており、岩盤の中に大きなひずみが蓄えられています。そのため、海のプレート境界やプレート内のほか、陸域の浅い所(深さ約20kmより浅い所)でも多くの地震が発生します。これを「陸域の浅い地震」と呼びます。

~陸域の浅い地震と活断層~
過去に繰り返し地震を起こし、将来も地震を起こすと考えられている断層を「活断層」と言います。
日本の周辺には約2,000もの活断層があり、それ以外にもまだ見つかっていない活断層が多数あると言われています。
「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)や「平成28年(2016年)熊本地震」も活断層の動きによって発生した地震です。
(2)陸域の浅い地震の特徴と被害
「平成28年(2016年)熊本地震」のように震源が陸域で浅い場合には、海溝型の巨大地震に比べて地震の規模が小さくても、住宅や構造物、ライフライン等が大きく破壊され、甚大な被害が発生することがあります。また、隣接する活断層に影響を及ぼし、広範囲で地震活動が活発化する場合があります。地震が連続して発生することで建造物の耐震強度が弱まる等で、倒壊の危険性が高まるなどの二次災害の発生の危険性もあります。
(3)事前の備え
陸域の浅い地震では、緊急地震速報が間に合わないことがあります。このため、突然の揺れに十分に身構えることが難しい場合を想定した事前の備えがとても大切です。
自分の住んでいる地域の過去の地震やその被害を知って、陸域の浅い地震でどのようなことが起こるのかを想像しながら、事前の備えを行いましょう。自宅や学校・職場など、普段の自分の行動範囲を考えながら、どのような危険が起こりうるか考えて備えることが大切です。
陸域の浅い地震だけでなく地震全般への備えとしては、具体的には建物の耐震補強、家具の固定、水や食料等の備蓄、避難場所の確認などがあります。家族と相談しながら備えを進めましょう。
コラム
■緊急地震速報(予報)を活用しましょう!
緊急地震速報には、テレビ、ラジオ、携帯電話等で見聞きする警報の他に予報があることをご存じでしょうか。予報には、以下のような3つの特徴があります。
1つめは、欲しい場所の情報を受け取ることが出来る点です。
自宅やオフィス等、どのくらい揺れるか知りたい場所を予想の対象地点とすることが出来ます。
2つめは、報知させたい予想震度を自由に設定出来る点です。
例えば、小さなお子さんがいるご家庭等、少しの揺れでも心配だという場所では、震度2からでも報知することが出来ます。
3つめは、揺れの到達予想時刻が分かる点です。
そのため、対応行動についてあらかじめ考えておけば、揺れるまでの猶予時間が短ければその場で身を守る、長ければ安全なスペースへ逃げるということも出来ます。
予報は、これらの特徴をいかして、デパート等の自動館内放送や、列車やエレベータの緊急停止等に活用されています。また個人でも、民間の予報業務許可事業者と個別に契約し、専用の受信端末やパソコン、スマートフォンのアプリケーション等を通じて入手することができます。
警報は、精度を高めるため2観測点での揺れの検知から発表しますが、予報は、1観測点での検知から発表します。このため、発表は迅速ですが、地震以外の揺れ(雷や機械の故障等)による可能性もあり、情報としての精度は落ちます。しかし、そのような可能性を考慮しても、少しでも早く情報を知りたいというニーズのあるところ、例えば工場の生産ライン停止等、機械制御の分野では活用されています。
予報には警報にはない特徴があることから、活用次第ではより防災効果を上げることが出来ます。予報と警報それぞれの特徴を知って、上手に活用し、揺れから身を守るために役立てましょう。

(4)東海地域の地震・地殻変動の監視と情報提供
東海地震は、駿河湾から静岡県の内陸部を震源域とし、いつ発生してもおかしくないと考えられている大規模な地震で、現在、科学的な直前予知の可能性がある地震と考えられています。東海地震は陸側のプレート(地球表面を覆う厚さ数十~百キロメートル程度の岩石の層)とフィリピン海プレートの境界で起こる地震です。プレート境界には、普段は強くくっついている領域があります。東海地震の前にはこの領域の一部が少しずつすべり始め、最終的に急激に大きくずれて強い揺れを発生させ、東海地震になると考えられています。この少しずつすべり始める現象を「前兆すべり(プレスリップ)」といいます。東海地震の予知は、この前兆すべりに伴う地盤の伸び縮み(地殻変動)を捉えることで行います。気象庁は、東海地震の発生を予知し、国民の防災・減災行動に役立てるため、関係機関の協力を得て、東海地域とその周辺に展開された地震計やひずみ計などのデータを収集し、この地域の地震と地殻変動を24時間体制で監視しています。

気象庁は、観測データに異常が現れた場合、地震学等の専門家から構成される地震防災対策強化地域判定会(判定会)を開催し、東海地震に結びつくかどうかを3段階からなる「東海地震に関連する情報」で発表します。防災機関等はこの情報内容に応じた段階的な防災対応をとります。
ただし、前兆すべりの規模が小さい場合などには、前兆現象を捉えることができず、上記の情報を発表できないまま東海地震が発生する可能性もあります。


(5)地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用
「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、地震に関する調査研究を一元的に推進するため、総理府(現在は文部科学省)の特別の機関として地震調査研究推進本部(通称:地震本部)が設置されました。
また、同法に基づき、気象庁は、文部科学省と協力して、平成9年より地域地震情報センターとして大学や国立研究開発法人防災科学技術研究所などの関係機関からの地震観測データを収集・処理しています。
これらの収集・処理されたデータは、地震本部の下に設置されている地震調査委員会で行われる各種の地震活動評価や、大学など関係機関での地震調査研究に活用されるだけでなく、気象庁の地震情報等の防災気象業務にも活用され、多方面で防災・減災に役立てられています。
2節 火山の監視と防災情報
(1)火山の監視
ア.110活火山と火山監視・警報センター
我が国には火山噴火予知連絡会により選定された110の活火山があります。気象庁では、本庁(東京)に設置された「火山監視・警報センター」及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「地域火山監視・警報センター」(両者をまとめ、以下「火山監視・警報センター」という。)において、これらの活火山の火山活動を監視しています。110の活火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として平成21年6月に火山噴火予知連絡会によって選定された47火山及び平成26年11月の同連絡会の検討会で追加すべきとされた八甲田山、十和田、弥陀ヶ原については、噴火の前兆を捉えて噴火警報等を的確に発表するために、観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置及び監視カメラ)を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関等)からのデータ提供も受け、火山活動を24時間体制で常時観測・監視しています。(トピックスⅠ-10参照)

また、50火山以外の火山も含めて、火山監視・警報センターが火山機動観測として現地に出向き計画的に現地調査を行っており、火山活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するため観測体制を強化します。例えば、平成27年5月29日に噴火警戒レベル5(避難)の噴火警報を発表した口永良部島では、噴火による噴石で観測施設が使用できなくなったため、現地に臨時の地震計を設置するなどしました。

火山監視・警報センターは、全国の活火山について、観測・監視の成果に基づき、火山活動の評価を行い、噴火発生が予想された場合には「警戒が必要な範囲」(この範囲に入った場合には生命に危険が及ぶ)を明示して噴火警報を発表しています。
イ.火山活動を捉えるための観測網
火山噴火の前には、マグマや高温高圧の水蒸気が地表付近まで上昇するため、普段は見られない様々な現象(地震の群発、火山性微動の発生、地殻変動、噴気温度の上昇、噴煙や火山ガスの増加など)が起きます。
こうした現象は先行現象と呼ばれ、高感度の観測機器を用いて火山現象に応じた適切な監視・観測をすることで捉えることができる場合があります。

○震動観測(地震計による火山性地震や火山性微動の観測)
震動観測は、地震計により、火山体内部で発生する微小な地震(火山性地震や火山性微動)を捉えるものです。マグマの移動や、それに伴う岩石の破壊、マグマに溶け込んでいる気体の発泡などにより発生すると考えられています。
○空振観測(空振計による音波観測)
空振観測は、火山の爆発的噴火などで生じる空気の振動をとらえるものです。天候不良等により監視カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震計による地震記録や空振計による空振記録等より、噴火の発生と規模をいち早く検知することができます。

○地殻変動観測(傾斜計、GNSS等による地殻変動観測)
地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる地盤の傾斜変化や山体の膨張・収縮を観測するものです。傾斜計では火山周辺で発生するごく微小な傾斜変化をとらえることができます。また、GNSS観測装置では、複数のGNSS観測装置を組み合わせることで2点間の距離の伸縮を計測することから火山周辺の地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮を知り、火山活動を評価するための重要な手段となります。


○監視カメラによる観測
監視カメラにより、定まった地点から、噴煙の高さ、色、噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測しています。気象庁では、星明かりの下でも観測ができる高感度の監視カメラを設置しています。

ウ.現地調査
気象庁では、火山活動に変化がある場合は、現地に機動観測班を派遣し、火山機動観測を行うことにより、火山活動の正確な把握に努めています。また、全国の110の活火山について、平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGNSS観測、熱や火山ガスなど陸上からの観測やヘリコプターによる上空からの観測等を実施し、継続的な火山活動の把握・評価に努めています。
○熱観測
赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、温度の高まりなど熱活動の状態を把握します。

○上空からの観測
関係機関の協力により、ヘリコプター等を用いてカメラや赤外熱映像装置により、地上からでは近づけない火口内の様子(温度分布や噴煙の状況)や噴出物分布を上空から詳しく調査・把握し、火山活動の評価に活用します。
○火山ガス観測
火口から放出される火山ガスには、水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれています。気象庁では、小型紫外線スペクトロメータ(COMPUSS)という装置を用いて火山ガス(二酸化硫黄)の放出量を観測し、火山活動の評価に活用します。

○噴出物調査
噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。

(2)災害を引き起こす主な火山現象
火山は時として大きな災害を引き起こします。災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、土石流、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。
・大きな噴石 爆発的な噴火によって火口から吹き飛ばされる大きな岩石等(概ね50センチメートル以上の岩石)は、風の影響を受けずに弾道を描いて飛散して短時間で落下し、建物の屋根を打ち破るほどの破壊力を持っています。大きな噴石による被害は火口周辺の概ね2~4キロメートル以内に限られますが、過去、登山者等が死傷する災害が発生しており、噴火警報等を活用した事前の入山規制や避難が必要です。
・火砕流 高温の火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。規模の大きな噴煙柱や溶岩ドームの崩壊などにより発生します。大規模な場合は地形の起伏にかかわらず広範囲に広がり、通過域を焼失させる極めて恐ろしい火山現象です。流下速度は時速数十から百数十キロメートル、温度は数百℃にも達します。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。
・融雪型火山泥流 積雪期の火山において噴火に伴う火砕流等の熱によって斜面の雪が融かされて大量の水が発生し、周辺の土砂や岩石を巻き込みながら高速で流下する現象です。流下速度は時速60キロメートルを超えることもあり、谷筋や沢沿いをはるか遠方まで一気に流下し、大規模な災害を引き起こしやすい火山現象です。積雪期の噴火時等には融雪型火山泥流の発生を確認する前にあらかじめ避難が必要です。
・溶岩流 マグマが火口から噴出して高温の液体のまま地表を流れ下るものです。地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、流下速度は比較的遅く基本的に徒歩による避難が可能です。
・小さな噴石・火山灰 噴火により噴出した小さな固形物で、粒径が小さいほど遠くまで風に流されて降下します。小さな噴石は10キロメートル以上遠方まで運ばれ降下する場合もありますが、噴出してから地面に降下するまでに数分~十数分かかることから、火山の風下側で爆発的噴火に気付いたら屋内等に退避することで身を守れます。火山灰は、時には数十から数百キロメートル以上運ばれて広域に降下・堆積し、農作物の被害、交通障害、家屋倒壊、航空機のエンジントラブルなど広く社会生活に深刻な影響を及ぼします。
・火山ガス 火山地域ではマグマに溶けている水蒸気や二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素等の様々な成分が気体となって放出されます。ガスの成分によっては人体に悪影響を及ぼし、死亡事故も発生しています。
(3)噴火警報と噴火予報
気象庁は、噴火災害軽減のため、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき噴火警報を発表しています。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して発表します。
例えば、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。「噴火警報(居住地域)」は特別警報に位置付けられています。
これらの噴火警報は、気象庁ホームページで掲載するほか、報道機関、都道府県等の関係機関を通じて住民等に直ちに周知されます。
また、噴火警報を解除する場合等には「噴火予報」を発表します。

(4)噴火警戒レベル
ア.噴火警戒レベルの考え方
噴火警戒レベルは、内閣府が平成18年から開催した「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」の報告に基づき、火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、平成19年12月から運用が開始されたものです。地元の自治体や関係機関で構成される火山防災協議会で火山活動に応じた「とるべき防災対応」が定められた火山で運用が開始され、市町村・都道府県の「地域防災計画」にも定められます。
噴火警戒レベルを付した噴火警報・噴火予報により、市町村等の防災機関では、合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。
イ.噴火警戒レベルの設定と改善
平成27年12月に施行された活動火山対策特別措置法の一部改正により、全ての常時監視火山の周辺地域では、火山防災協議会の設置が義務付けられました。平成29年1月現在、38火山で噴火警戒レベルの運用が行われており、気象庁では、地元自治体等での具体的な避難計画の策定への助言を通じて、噴火警戒レベルの設定と改善を地元の火山防災協議会と共同で進めていきます。
(5)降灰と火山ガスの予報
噴火警報等で扱う火山現象以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。
(6)火山現象に関する情報
噴火警報や上記の予報のほか、火山現象に関する情報を発表することにより、火山活動の状況等をお知らせしています。
(7)火山噴火予知連絡会
火山噴火予知連絡会は、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)の建議)の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年に発足した組織です。連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究及び観測体制を整備するための検討を行っています。
連絡会は、学識経験者や関係機関の専門家から構成され、事務局は気象庁が担当しています。
定例会を年3回開催し、全国の火山活動について総合的に検討を行うほか、火山噴火などの異常時には、気象庁長官の招集による幹事会や臨時部会を開催し、火山活動の総合判断を行うほか、火山の活動評価に関する資料の収集・解析を行うため、機動的な総合観測班を設置し現地に派遣します。

コラム
■火山の監視体制の充実と課題
京都大学名誉教授/気象庁参与
石原 和弘